友達が亡くなるまでの10カ月間 3

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俺たちはコンビニで酒を買い、公園のベンチに座った。

少し広めの公園で、夜はあまり人気がない。

多少不気味さはあるものの、俺たちの会話を誰かに聞かれにくいという意味では最適な場所だった。

池のある公園で、俺たちは少しの間黙って池を見つめていた。

この時間が心を落ち着けた。

そしてとりあえずの乾杯をして、缶ビールを一気に半分ほど飲み干し一息つくと、俺はもう一度尋ねた。

「さっきの話だけどさ。俺、実はときどき視えることがあるんだよ。でさ。お前、その女の子に何かしたの?」

「ときどき」という言い方をしたのは、ここにきても霊の視える頭のおかしい奴だと思われたくないという、一種の自己防衛だったんじゃないかと思う。

Aは10秒ほど沈黙をした後に、言った。

「・・・ここんところさ、毎晩体中が痛いんだ。痺れるような激しい痛みでさ。あまりの痛みで眠れないんだよ。その痛みがあるときは、必ず女のすすり泣くような声が聞こえるんだ。誰が泣いてるんだかわからないけど、女の泣き声が聞こえてくるんだ。もちろん、病院には行った。内科も行ったし、整形外科にも行ったけど異常なし。ここ最近は、精神科に行って睡眠薬をもらってるよ。」

Aは俺の質問には全く答えていなかった。

そして続けた。

「お前さ、視えるって言ってたよな?どんな女が視えるんだ?」

「どんな女って言われてもな。どこにでもいそうな真面目そうな女の子だよ。でも今は、少し怒ったみたいな顔になってる。」

さすがに悪魔みたいな形相をしているとは言えなかった。

Aはかなり参ってるみたいだったから、これ以上怯えさせるのは良くないと思ったのだ。

「女のさ、見た目の特徴言ってくれよ。」

「それがさ、今は顔が見えないんだよ。なんていうか、怒ってるみたいでさ。表情が変わってしまっていてさ。」

「それでも何かあるだろ?特徴的なものが。」

そういわれても困る。

俺はまじまじと女を見た。

初めて視たときからずっと夏物の服を着ている。

「うーん。顔はちょっとわからないけど、髪の毛は黒髪で肩くらいまでの長さ。綺麗な髪をしてるよ。で、上下とも花柄っていうのかな。あと、スカートはいてる。全体的に真面目っぽい感じだ。あ、あと左の腕あたりにアザみたいなのがあるな。」

俺の言葉を聞いて、Aの顔色がさらに悪くなっていくのが分かった。

そして、俯いたまま聞いてきた。

「お祓いってさ。どこに行けばいいのかな?お前、そういうのできる?」

「いや、俺はできないし、どこに行けばいいのかもわからないわ・・・・ネットとかで探すしかないんじゃないかな。」

こんなとき力になってあげられなくて申し訳なかった。

本当はネットなんかで探しても意味ないぞ、と言ってやりたかったのだが、目の前でここまで怯えた友達を前にしてその言葉は言えなかった。

何もしてあげられないまま、沈黙だけがその場を支配した。

黙ったまま缶ビールを二本飲み干すと、その日はそのまま解散することとなった。

何もしてあげられなかったし、何も聞いてあげることができなかった。

俺の目には、明らかにAは言いたくなさそうなものを抱えているように見えたのだ。

俺の好奇心だけで気軽に訊ねていい内容の話には思えなかったのだ。

救ってあげられない以上、話を聞くのは好奇心でしかないはずだ。

あの場では何も聞かないのが正解だったんじゃないかと思う。

これは後付けの言い訳になるかもしれないが、あの日の俺はそう感じていたのだ。

それから数日経ってから、Aは亡くなった。

病死だったということは聞いた。

何の病気なのかは分からない。

彼のご両親は息子の突然の死に号泣していて、とてもじゃないが詳しく尋ねられる雰囲気ではなかった。

一つ言えるのは、若くて体力のある男が短期間でやつれ、あの世へ行ってしまったことだけは確かだった。

俺は、あの女がAの病気と何かしら関係しているのではないかという思いが頭をよぎった。

これは単なるカンでしかないが、あの女のおぞましい顔は絶対に何かあるように思えたのだ。

女が生前に、Aから何をされたのかはわからないし、二人がどんな関係だったのかもわからない。

でもAのあの怯えた様子から察するに、きっと二人の間には何かがあったのだ。

俺はこのことがあってから、自分の無力さを痛いほど痛感した。

霊が視えてしまうばっかりに、苦しまなくていいところで苦しんでしまうこともある。

霊感なんていらない。

こんなものがあってもろくなことはない。

大事な友達を救ってやることもできないのだから。

終わり

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