友達が亡くなるまでの10カ月間

友達が亡くなった。

これは亡くなるまでの10カ月間のこと。

霊感なんていらない。

こんなものがあってもろくなことはない。

大事な友達を救ってやることもできないのだから。

子供のころから俺には霊感があった。

だけど他人には、霊感のことを言わない。

「霊が視える」という話をすると、頭のおかしな奴だと思われるのがオチだからだ。

そして、霊感があってもめったに怖い体験をすることはない。

たいていの場合、幽霊というのはただそこに存在するだけで悪さをしない。

俺からすれば、ただ「視える」だけの存在でしかなかったのだ。

幽霊が怖いという認識はあまりない。

だが俺も1度だけ「こりゃあ、やばいな」というものを視たことがある。

ある友達とのエピソードなんだが、仮にその友達をAとしておこう。

Aは高校時代からの友達で、大人になってからも年に数回会う仲だった。

腐れ縁とでも言おうか、話がドンピシャに合うわけでもないし、趣味が同じということでもないのだが、時々会って飯を食いながら近況報告しあうような仲だった。

きっとお互いに多くを求めないことが居心地の良い関係をつくれたのだと思う。

これから話すことは、そのAとの最後の10カ月間の話だ。

あるとき、いつものようにAと飯を食うことになった。

男同士だ。気取った店にはいかずに、安いチェーン展開の居酒屋に入る。

だいたい入る店のバリエーションは3つほどしかなく、気分次第で3つの店を使い分けていた。

その日もチェーンの居酒屋に入ったのだが、俺には気になることがあった。

Aの隣に、女がいるのだ。

生きている女じゃない。

俺にしか「視えない」女だ。

下を向いているため顔はよく見えないが、どこにでもいそうな雰囲気のどちらかというと真面目そうな子だった。

服装の感じから亡くなったのは最近なのではないかと想像できた。

多少気にはなったものの、Aに確認はしなかった。

幽霊というのはときどき生きている人にくっついてくることもあるし、なによりもその女性のことを話題に出すということは俺に霊感があることを言わなくてはならない。

そう、俺は友達にすら霊が視えることは言っていない。

子供のころならまだしも、大人になってから霊が視えるなんて言ったら、痛い奴だと思われかねないのだ。

Aには当然、その女は視えていないようだったし、わざわざ怖がらせる必要なんてないと思っていた。

その日は3時間ほど酒を飲みくだらない話ばかりして、解散となった。

何を話したのかなんてほとんど覚えていない。

忘れてしまう程度の話だったことは確かだ。

次にAと会ったのは、それから2カ月後のことだった。

駅前で待ち合わせていたのだが、会ってみて驚いた。

あの女がまだAの隣にいたからだ。

俺は2カ月ぶりだったが、この女は2カ月間ずっとAの隣にいたということになる。

寝食や風呂、トイレの時だってずっと隣にいるわけだ。

幽霊に慣れている俺もさすがにゾッとしない気分だった。

俺の気持ちは顔に出てしまっていたのだろう。

Aが聞いてきた。

「どうかしたの?」

女のことを打ち明けようとは思わなかった俺は、足の指を深爪していて痛いのだと言った。

その時は本当に足の指を深爪していたのだ。

Aはそれ以上は聞いてこなかった。

納得したのだろう。

その後二人で居酒屋に行き、また3時間ほど飲んだ。

何度かAの横にいる女を見たが、前とは少し雰囲気が違うように思えた。

別人の霊ということじゃない。

同じ女の霊であることは間違いないのだが、どことなく雰囲気が違って思えたのだ。

気のせいだろう、そもそも前回はほとんど顔が見えなかったのだし、そう思って自分を納得させた。

Aと別れ家路についたのだが、俺は嫌な予感がしていた。

前回、Aと会った時は感じなかった嫌な感じだ。

言葉にはしにくいが、良くないモノを感じていたのだ。

続き→友達が亡くなるまでの10カ月間 2

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