10年以上前。
私が小学6年生だったときだったと思います。
その日。
私は、仲の良かったクミちゃんと二人で遊んでいました。
近所の駄菓子屋さんにお菓子を買いに行ったのです。
帰り道、おかしなものを見かけました。
通りかかった古びたアパートから、全身真っ黒な人がヌっと現れたのです。
なんと表現すればいいのでしょうか。
人影と言えばよいのでしょうか。
全身が真っ黒で、顔の部分には目だけがありました。
私たちはそれを見た瞬間、小さく悲鳴をあげてしまいました。
その悲鳴が黒い影に聞こえたのでしょう。
影は、こちらをギロっと睨みつけてきました。
もう、怖くて怖くて、どうしていいかわかりません。
頭は真っ白になっていましたが、とにかく逃げた方が良さそうだと判断しました。
私とクミちゃんは、全速力で走り出します。
しばらく走り、後ろを振り向いてみました。
もう大丈夫かと思っていましたが、影が後ろから追いかけてきているでありませんか。
こうなると、もうパニック状態です。
とにかく無我夢中で走りました。
「捕まったら殺される。」
根拠はありませんが、そんな恐怖に襲われながら走り続けました。
どれくらい走り続けたでしょうか。
クミちゃんは、自分の家に真っ直ぐ逃げ込もうとしていました。
でも、私がそれを止めます。
「ダメだよ。あいつに、家を知られたら、終わりだよっ!」
家から離れるように走りました。
ずいぶん遠回りして、やっとのことでクミちゃん家までたどり着きました。
周りを注意深く見ても、あの影はいませんでした。
遠回り作戦が功を奏したのか、助かったようです。
ほっと胸をなでおろした時には、二人は汗だくでした。
もしかすると、走った汗だけではなく、恐怖による汗も同時にかいていたのかもしれません。
部屋に入り一息つくと、さっきの恐怖体験について話しました。
「さっきのあれ、なんだったの?お化け?」
「名探偵コナンの犯人じゃない?」
もう安全だと思っていた私たちは、先ほどの恐怖を冗談にしたかったのだと思います。
そのとき私は、気になるものを発見してしまいました。
部屋の窓に、手形がたくさんついていたのです。
クミちゃんの家は母子家庭で、母一人子一人で団地の4階に住んでいます。
お母さんは昼間に働いていて、家にいません。
お母さんは不在でも、家の中は常に整理整頓されていて、とても綺麗なのです。
部屋を綺麗にしてるのに、窓だけ汚いのが気になってしまったのです。
「ねえ、クミちゃん?なんであの手形みたいなの拭かないの?」
私が聞くと、クミちゃんも窓を見ました。
そして、絶句・・・
「・・・・なにこれ?」
二人でまじまじ観察してみましたが、大人の男の人の手形でしょうか。
大きい手の跡が、窓には無数についていました。
クミちゃんに心当たりはないようです。
複雑な表情を浮かべ、窓を拭くクミちゃん。
でも、跡は一向に消えません。
どうやら、その手形は内側ではなく外側からつけられたもののようです。
重ねて言いますが、クミちゃんの家は4階です。
窓の外に足場はありません。
そして、この家庭に男の人は住んでいないのです。
先ほどの黒い影のこともあり、私たちは怖くて仕方がありませんでした。
私はその家の住人じゃないのにすっごく恐かったのですから、住んでいるクミちゃんの恐怖は計り知れないものがあったと思います。
結局、あの影が何だったのかも、窓の手形がなんだったのかも謎のままです。
大人になった今でも、あれが何だったのか分かりません。