これは、私が友達と旅行をしてたときの話です。
二人である宿泊施設に泊まりました。
案内された部屋はとても綺麗な部屋でした。
ですが、部屋の雰囲気に似つかわしくない人形が置いてあるのが気になりました。
古びた人形で、ガラスケースに入れられています。
それが、隅っこにポツンと置かれているのです。
多少気にはなったものの、せっかくの旅行です。
そんな些細なことは忘れて、友達との二人旅を満喫しました。
その土地では、たくさん笑い、たくさん歩き、たくさん食べました。
一日遊んだので、宿泊場所まで戻ってきたときにはクタクタです。
敷かれた布団に入ると、すぐに眠りの世界に誘われました。
私は夢を見ました。
良くない夢です。
夢の中の私も同じ施設の同じ部屋で眠っているのですが、突然部屋に男性が乱入してくるのです。
見たこともない男性でした。
その男性は私に暴行してきました。
乱暴された後、最後はナイフのような刃物で刺されてしまうのです。
刺された痛みで、目が覚めました。
今の怖い夢はなんだったのでしょうか。
時計は見ませんでしたが、部屋の中が暗いことから日は昇っていないようです。
ふと見ると、部屋の隅の暗闇で何かが動いていました。
目を凝らすと、部屋に置いてある人形がなにやらくねくねと踊っているように見えます。
その踊りがなんとも不気味でした。
私は布団を頭まで被ると「まだ私は夢の中にいるんだ」と自分に言い聞かせました。
そのまま、いつの間にか眠っていたようです。
次に気が付いた時には、朝になっていました。
隣を見ると友達はまだ眠っているのですが、少しうなされているように見えました。
うなされている友達の肩をポンポンと叩き、聞きました。
「大丈夫?」
すると、友達はハッとしたように目を開けて、しばらく声を発しませんでした。
そして、少ししてからこういいました。
「起こしてくれて、ありがとう。恐い夢見てたの。」
友達が見た「恐い夢」の内容を聞いてみて、驚きました。
なんと、私が見た悪夢とほとんど同じ夢を友達も見ていたのです。
同じだったのは夢の内容だけではありません。
友達は夜中にトイレに起きたそうなのですが、そのときに部屋の人形がくねくねと踊っている姿を目撃したというのです。
そのときに私たちは思いました。
「この部屋には何かある。」
私たちはフロントにいたスタッフさんに、それとなく人形のことを聞いてみました。
そのスタッフさんはおかしな変事をくれました。
なんでも、私たちの泊った部屋に人形は飾っていないというのです。
そんなはずはありません。
私と友達は、自分たちの部屋に引き返しました。
すると、先ほどまで置いてあった人形が忽然と姿を消しているのです。
その瞬間、全身にゾッとするものを感じずにはいられませんでした。
きっと私たちは、怖さを紛らわせたくてなんでもいいから納得のいく説明が欲しかったのでしょう。
すぐに廊下に出ると、廊下にいたスタッフさんに聞いてみました。
そのスタッフさんは、先ほど話したスタッフさんと比べて「ベテラン」という雰囲気の方でした。
「この部屋に置いてあった人形を、片付けましたか?」
私がそう訊ねると、そのスタッフさんは動揺したように返事をしてくれました。
「人形があったのですか?」
やはり、この宿泊施設にはなにか秘密があるのではないかと恐怖を感じてしまいます。
本当は、もう一泊その部屋に泊まる予定だったのですが、部屋を替えてもらうことにしました。
ベテランスタッフさんは、詳しく理由を尋ねてくることもなく、迅速に対応してくれました。
部屋を替えてからは、もうおかしなことはなく快適な旅になりました。
結局、あの人形のことは謎のままです。