温泉旅館の異界2

前回→温泉旅館の異界

この男の子は、俺をからかっているのか。

だが、妙な迫力がある。

男の子は俺の手を握ると、少しだけ一緒に歩いてくれた。

そして、俺の手に小さな石を握らせながら言った。

「いい?今すぐに、元いた場所に戻って。それで、こっちにいる間はこの石を離してはだめだからね。それじゃ、早く行って。」

意味が分からないけれど、男の子の言うことには説得力があった

男の子の発言と、先ほどから俺が感じていた違和感がリンクしているのだ。

今すぐ部屋に戻った方が良さそうだと思えてくる。

俺は言われたとおりに、部屋に戻ることにした。

ジュースは、部屋から受付に電話して持ってきてもらえばいいと考える。

俺は、男の子に別れの挨拶をすると、廊下を歩いた。

しばらく歩くと、どこからか声が聞こえてきた。

「・・・・・・・・・おかしくないか・・・・・おかしくないか・・・・・・・・・何かが紛れ込んでいる・・・・・・・・・おかしくないか・・・・・・・・・おかしくないか・・・・・・・・・何かが紛れ込んでいる・・・・・・・・・」

不気味な声だった。

その声はさらにこう言っていた。

「・・・・・・・・さがせ・・・・・・・・・・紛れ込んだ何かをさがせ・・・・・・・・・・・さがせ・・・・・・・・さがせ・・・・・・・紛れ込んだ何かを・・・・・・・ころせ・・・・・・・」

はっきりと聞こえる。

紛れ込んでいる奴とは、俺のことだろうかと考える。

俺は見つかったら殺されるだろうか。

足が震えてくるのが分かる。

でも、立ち止まってはいられない。

走りたかったけれど、足音が聞こえてしまうかもしれない。

俺は、男の子にもらった石を強く握り締めて、廊下を歩いた。

行きはこんなに長く歩いただろうか。

廊下を歩くその時間は、生きた心地がしなかった。

・・・・・・・・やっとのことで部屋にたどり着いた俺は、布団を被り震え続けた。

心の中で、「誰か助けてくれ」と何度叫んだだろう。

記憶があるのはそこまで。

いつの間にか、眠ってしまっていた。

気を失ったと言っても良いかもしれない。

・・・・明るい光で目が覚めた。

朝だった。

戻れたのだろうか。

やけに喉が渇いている。

俺は、恐る恐るは部屋を出てみた。

廊下では、旅館のスタッフたちがキビキビと働いている姿が目に入った。

きっと戻れたんだ、という安心感が胸に広がった。

その直後、「あれは、すべて夢だったのではないだろうか?」という疑問も湧いてきた。

昨日のあれは、夢だった可能性が充分にある。

むしろ、夢だと考えるのが正解なのだろう。

ふと、部屋の上に何かがあることに気が付いた。

それは、昨晩男の子にもらった石だった。

・・・夢ではなかったようだ。

夢だと思いたいが、石が目の前にあるのだ。

俺は一体、どこに行ってしまっていたのだろう。

異世界だったのだろうか。

それとも、あの世だったのだろうか。

よく分からない。

一つ言えることは、「戻ってこられて良かった」ということだけだった。

もしも、男の子に会えていなかったら、今頃はどうなってしまったことか。

そして、この石にはどんな意味があったのだろう。

俺なりの勝手な解釈ではあるが、この石はこちらの世界に戻るために必要なものだったのではないだろうか。

そう考えると、男の子には感謝しなくてはならない。

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