奇妙な電話番号

佐藤さんが、十数年前に体験した話である。

ある日の夜中。

佐藤さんは、ベッドの上に寝転がって携帯をいじっていた。

送受信したメールを見たり、電話帳を見たりと暇つぶしをしていたのだ。

途中、電話帳を見ていたときに、手を止めた。

登録した覚えのない番号が入っていたのだ。

もしかすると、多くの人にとって登録した覚えのない番号が電話帳に入っているのは、珍しいことではないかもしれない。

でも、佐藤さんの場合は電話帳の登録名が異様だった。

登録名が、「あの世へとの交信」だったのだ。

まるで中学生にイタズラされたような登録名だ。

こんなふざけた名前で登録したら、いくらなんでも覚えているだろう。

友達とふざけて登録しそうなネーミングでもあるが、そんな記憶はまったくない。

普通ならこんなのは無視するか、気味悪がって削除してしまうことだろう。

でも、佐藤さんは興味が湧いてしまった。

「なんか、面白そうだ。」

独り言をつぶやくと、登録された電話番号へ発信してしまった。

当時はまだ、ワン切り業者や架空請求業者という問題は話題になっていなかった時代。

知らない番号へ電話をかけることが、危険だとは思われていなかったのだ。

電話をかけてみると、すぐにコールが鳴った。

プルルルルルーーーー

カチャ

誰かが電話に出たようだ。

佐藤さんは、声をかける。

「もしもし?」

「もーし・・・」

「もしもし?」

「もーし・・・・」

「あのそちらはどなたですか?」

佐藤さんは、尋ねた。

「もーし・・・・」

相手は、「もーし・・・・」としか言わない。

ただ、少しだけ奇妙だったことがある。

一度途切れるたびに、相手の声色が変わっていくのだ。

まるで、「もーし・・・」のたびに、電話を交代しているように。

若い女の人、老人、幼い子供、中年男。

次から次へと、「もーし・・・」の声が変わる。

かなり不気味だった。

「あのー、そちらはどなたですか?」

佐藤さんがもう一度聞くと、相手に質問を質問で返された。

「もーし・・・・・佐藤さん・・・・・あなたも・・・・・こちらに来ますか?」

ふざけているのか、本気なのか、相手は怖いことを言う。

なにせ、電話帳の登録名が「あの世への交信」なのだ、

もしも、「はい」とでも言えば、殺されてしまうのだろうか。

そしてなにより、相手は佐藤さんの名前を知っているのだ。

ここへきて急に怖くなってしまった佐藤さんは「俺は、そっちに行きません!」と言うと、電話を切った。

直後にその登録は、電話帳から消去した。

・・・・それから、何年も経過した。

佐藤さんは、知り合いの紹介で霊能者という方に会った。

ちょうどよい機会だからと、佐藤さんは過去の奇妙な体験を霊能者に話してみた。

すると、霊能者もその話にはびっくりしていた。

「佐藤さん、良かったですねー。」

「え?なんでですか?」

「その電話、おそらく本物でしたよ。」

「ええ?やっぱり?」

「はい。あの世の人はね。昔から、{もしもし}と言えないとされているんですよ。だからどうしても{もーし}と言ってしまうんです。」

「・・・・・・・・(恐怖で絶句)」

「相手側が{こちらに来ますか?}と聞いてきたんですよね?」

「・・・・・・・(黙ってうなずく)」

「もしそれに{うん}」と返事したり、無視したりすれば、あなたは今頃生きていないでしょうね。{そっちに行きません}と言って通話を切ったからこそ、今も生きていられるのだと思いますよ。」

佐藤さんは、このときになって凄まじい恐怖を感じ始めた。

スポンサーリンク