ある人が、大学生時代に体験した話。
大学のサークル仲間で、旅行に行った時のこと。
ある観光地で、バンジージャンプを体験できるという話を聞いた。
旅行中のバンジージャンプ、とても楽しそうだと思った。
だから、みんなで挑戦してみることにした。
私は、一人一人が飛ぶシーンを、ビデオカメラで撮影していた。
順番は田中の番になった。
田中はサークル一番のお調子者で、ムードメーカー。
「バンジージャンプ?全っ然、怖くないから!楽勝!」
余裕の笑みのまま飛んだ。
だが飛んだ途端、田中は情けない声を出し続けた。
「うわぁあぁあぁああーーーーー、誰か、おい、誰か、たす。助けて・・・助けてーええーーーー!!・・・・・た・・・す・・け・・・」
みんな大爆笑していた。
フリだったのだ。
「怖くない、怖くない」と言いながら、怖がるというフリ。
お笑い芸人がよくやる手だけれど、これがまた盛り上がる。
大いに笑わせてもらった。
普段からふざけていて、根っからのお調子者といった田中だけど、今日はやけにボケがきれている気がした。
演技も上手だった。
バンジーが終わった田中は、ガクガク震えていて、まだ演技していた。
みんな、ニコニコしながら拍手で彼を迎え入れる。
でも、田中はおかしなことを言い出した。
「・・・・誰かが、俺のことを羽交い絞めにして、殺そうとした・・・・」
意味がわからない。
これも、ボケなのか?
みんなはニコニコしていた。
「お前ら、なに笑ってるんだよ!俺は死にかけたんだぞ!」
真剣に言っているけど、田中の場合、どこまでがボケなのか分かりづらい。
その後、黙りこくっている田中を見て、ふざけているわけじゃなさそうだとみんなが気づき始めた。
でも、言っている意味がわからないのだ。
羽交い絞めにして殺そうとした?
誰もそんなことしてない。
第一、バンジーは一人で飛ぶものだ。
誰も彼に触れることはできない。
そう思っていたみんなは、とりあえず機嫌の悪い田中を放置することにした。
その後。
無事に楽しい旅行も終わり、大学に戻ってきた。
旅行で撮った写真やビデオをまとめていた女子が、おかしなことに気が付いた。
ビデオの映像に変なモノが映っているのだ。
変なモノが映っているシーンは、田中がバンジージャンプしているところだった。
彼が飛んだ直後、どこから現れたのか蛇のような生き物が田中の体に巻きついているように見えた。
そして、不気味なことに蛇のような生き物の顔は人間のように見えた。
蛇の体に人間の顔・・・・
そして、それは肉眼では見えなかった。
幽霊だろうか。
妖怪だろうか。
おそらく、妖怪と言った方が良いのかもしれない。
その蛇のような妖怪は、バンジーで飛んでいる田中の体に巻きついていたのだ。
まるで、彼を圧死させようとしているかのように、強く巻きついていた。
これを見た私は、全身にトリハダを感じていた。
その場にいた皆は、恐怖に引きつった顔をしている。
どうして良いのか分からなかった。
とりあえず、パニックを避けるため他言するのはやめようという話でまとまった。
あの蛇のような妖怪が、なんだったのか分からない。
目的も不明だ。
何が目的であんなことをしたのか。