これは、Aさんが実際に体験したこと。
一人暮らしのAさん。
住んでいる場所は、アパートと呼ぶよりは少しグレードが高く、マンションと呼ぶには少しだけ物足りないかのような集合住宅だった。
6階建ての4階。
ある日のこと。
Aさんは自宅に向かって歩いていた。
仕事帰りだった。
マンションの前まで来たときに、自分に部屋のベランダ付近に人影が見えた気がした。
一瞬、お隣さんがベランダで洗濯物でも干しているのかと思った。
現在は夜。
洗濯物などを干すにしては、あまりに遅い。
誰かが何かをしているのだろうか。
もしかすると、泥棒だろうか。
そうだ、きっと泥棒が自分の部屋へ入ろうとしているのかもしれない。
そう思ったAさんは、全速力で階段を駆け上がる。
息切れしながら、やっとのことで部屋の前まで到着し鍵を取り出した。
開けるのが怖かった。
家の中に知らない人がいることを想像すると怖い。
ましてや、グサリと包丁で刺されでもしたらと思うと、ドアを開けるのをためらってしまう。
かといって、現段階の未確認な情報で警察に通報するのも気が退けた。
警察を呼ぶのなら、さっきの人影が泥棒だと確信できてからだ。
勇気を振り絞って部屋の扉を開けるAさん。
ドアを開けてみると、部屋は真っ暗だった。
いつも通りのように見えた。
恐る恐る電気をつけて、部屋を明るくする。
誰かいないだろうか。
とりあえず、部屋を調べてみることにした。
トイレやら洗面所やらと泥棒を探してみるが、誰もいない。
さすがに怖かったため最後に回した、ベランダもチェックする必要があった。
恐々、カーテンを開けてみる。
明暗さがあり、外は暗くよく見えない。
顔を窓に貼り付けるようにして、外を見た。
そこには何かがいた。
一目、人間ではなさそうだった。
モンスターのように見える。
得体のしれない生き物が、ベランダにいたのだ。
大きさは、人間と変わらないくらいに見えた。
顔や身体が昆虫のようだった。
あえていえば、アリに見えた。
腰を抜かし悲鳴を上げるAさん。
悲鳴を聞いたその生き物は、部屋のほうを向いた。
Aさんは大絶叫。
その大声に驚いたのか、モンスターはベランダから飛び降りた。
そこは4階である。
しばらく動けなかったAさん。
しばらくすると立ち上がり、台所から包丁を持ってきた。
そして、ベランダのガラス戸を開けてみる。
誰もいない。
見たくなかったが、ベランダの下を見てみた。
暗くて良く見えないが、いつもと変わらないように見えた。
下に人だかりもできていない。
さっきのモンスター、この高さから飛び降りて、死んでいないのだろうか。
それとも、さっき見たものは、暗さと恐怖心からくる幻覚だったのだろうか。
正直なところ、さっきのものが現実だという自信がない。
いろいろと納得がいかないまま、部屋に戻ることにした。
そして、ふとガラス戸をあけようしたときに、ガラスの汚れが目に入った。
ガラスには、手形の跡がついていた。
Aさんのものではない。
というか、人の手の形にも見えない。
その手の跡には、指が3本しかなかった。