その男性が先輩に聞いた話だという。
これは昔、先輩に聞いた実話です。
先輩はいわゆるヤンチャ系の人で、悪いことばかりしていました。
一言で言うと、ヤンキーですね。
その先輩、仮にAさんとしましょう。
10代のころ、Aさんは肝試しに行ったそうです。
不良仲間を集めて行きました。
向かった先は、有名な心霊スポットではありません。
たまたま見つけた場所でした。
古びた洋館のような雰囲気の屋敷です。
大通りから遠くに見えていたその建物は、見るからに幽霊屋敷ということばがピッタリでした。
Aさんたちは、バイクや車でその場に乗りつけ建物の中に入りました。
不法侵入です。
屋敷内に入ると、好き勝手に荒らして回りました。
物を壊したり、叫んだり、やりたい放題です。
「おーい、幽霊さんよー。出てこれるもんなんら出て来いよ。」
「俺とタイマン張ろうぜ。」
散々好き勝手にふるまいましたが、何も起こりませんでした。
もともと心霊スポットではないのですから、当然かもしれません。
屋敷の外に出ると、Aさんの友人の一人が大声をあげました。
「おい、誰だよ?こんなイタズラした奴?」
その友人は車で来てきたのですが、自分の停めてある車を見て大声をあげているのです。
その場にいたみんなの視線が、車に集まります。
車の助手席には、フランス人形がチョコンと座ってました。
車はロックされています。
だから、友人の誰かがイタズラするのには無理があるのです。
さっきまでの威勢はどこへやら、皆の顔色が悪くなっていきます。
「おい、嘘だろ。」
「これ、普通にヤバくね?」
口々につぶやいています。
Aさんは、心の中で屋敷の主に謝罪していました。
フランス人形が助手席に座っていたのは、警告ではないかと感じたのです。
これ以上攻撃してくるのなら容赦しない、という警告です。
不思議なことに、そこに来ていた友人たちのほとんどが、同じように解釈したそうです。
だから皆、心の中で謝罪しました。
でも、一人だけ攻撃的な態度を崩さない人がいました。
「面白いじゃん。おい、かかって来いよ。幽霊さんよ。」
皆、嫌な予感がしました。
これ以上挑発すると、良くないことが起きると感じていたのです。
案の定。
彼はひと月後、派手なバイク事故を起こし、左手に怪我をしました。
後遺症が一生残ってしまうほどの怪我でした。
Aさんは、彼のお見舞いに行ったときに言いました。
「今からでも遅くないから、屋敷の主に謝罪しろ。」
攻撃的だった彼も、事故後はおとなしくなり謝罪したぞうです。
というのも、事故を起こした理由が関係しています。
彼が言うには、運転中に空からフランス人形が降ってきたというのです。
それを避けようとして、事故が起きたそうです。
空から人形が降ってるくるなんてことがあり得るでしょうか。
Aさんは最後に言っていました。
「人はヤンチャしてもいいけど、最後の一線。人としての心を失ったらだめなのかもな。」