ある男性が体験した話。
当時男子校に通っていた俺。
基本的に男子校というのは、女子との出会いや接点というのはほとんどない。
あるとすれば、文化祭だろうか。
文化祭は、他校の生徒が来てくれるので有難い行事なのだ。
文化祭を前にして、うちのクラスは何をやろうかという話になった。
年に一度の出会いのチャンスだ。
やっぱり女ウケを狙いたいと思うのが、思春期男子の発想だろう。
いろいろ考えた末、怖い話なら他校の女子たちも盛り上がるのではないかということになった。
女子ウケしか考えていないおバカな発想ではあるが、うちのクラスは「怪談百物語」で決定した。
本当は、お寺みたいな雰囲気のある場所を借りて本格的にやりたいところだ。
でも、高校の文化祭ではそんなことはできない。
当然だが、怪談は教室で行うことになった。
また、他の問題もある。
文化祭の時間内で、100話も怪談を話すことはできないということだ。
そこで、怪談の動画を教室で流すということになった。
事前に録画しておいたものを、当日に流すのだ。
これで盛り上がるかどうかはわからない。
まあ、高校の文化祭というのはこういう適当な面があったりする。
そんな、ある日の放課後。
怪談の撮影が行われた。
その日空いている教室にクラスのメンバーが集まって、怖い話を披露していくのだ。
部屋の電気を暗くし、ロウソクの炎だけで話していく。
苦労したのは、演出のための教室の明るさだった。
学校の教室は、光を取り込めるような造りになっているため、なかなか暗くならない。
窓が多すぎるのだ。
新聞紙で窓をふさいだ上で、カーテン閉めることで、なんとか雰囲気を出した。
そして、ロウソクに火を灯す。
すると、それなりに雰囲気も出るものだ。
皆で、床に座り円になった。
そこで、各自が用意していた怪談を話していく。
怖い話というのは、話の上手い奴と下手な奴の差が激しい。
だが、それがまた面白い。
順番は、怖い話が大好きな田中の番になった。
怪談フリークだけあって、話がとても上手く、皆が惹きこまれた。
これぞ百物語、といった雰囲気だった。
そのとき。
突然、山根という男が「ヴエェッー」と気持ち悪い声をあげた。
山根を見ると、吐いてしまっている。
「なにやってんだよ?」
「汚っねえな!」
「俺にもかかったじゃねーかよ!」
皆、山根を責め立てた。
録画はいったんストップした。
皆に責められて、山根は泣きそうになっていた。
そして、こんな言い訳をし始めた。
「誰かに腹を圧迫され、首も絞められたんだ。」
誰も山根の背後になんて行っていないし、首も絞めていない。
この教室にいる全員が輪になって座っているため不可能なのだ。
それでも「首を絞められた」と主張する山根。
あまりにしつこいため、録画したビデオを確認してみる事にした。
ビデオは2つまわしていた。
話している人間を映すためのカメラと、クラス全体を映すためのカメラだ。
早速、ビデオを確認。
皆で小さな液晶を覗き込む。
問題の場所はこの辺りだろうか。
そのとき、全員が凍りついた。
映っていたのだ・・・・
山根の言うとおりだった。
誰もいないはずの山根の背後から青白い手が伸びて、首を絞めているように見えた。
そのビデオを見た直後に、山根は興奮して泣き出してしまった。
これは百物語どころではない。
正真正銘の心霊映像が撮れてしまった。
しかも、首を絞めるだなんて悪意に満ちた霊だ。
このまま続ければ、不吉なことが起こるのではないだろうか。
クラスの多くがそう感じていた。
結局、文化祭で百物語をするのは中止となり、撮影したビデオもお蔵入りとなった。