これは、Aさんが体験した話。
Aさんは、あるとき美容室に髪を切りに行った。
今まで通っていた美容室ではなく、新規の場所だった。
中に入ってみると、良い雰囲気だった。
こじんまりしているがお洒落な店内、お客さんは多く、スタッフの対応も良かった。
Aさんは、好印象をもった。
次回からは、ここへ通おうと思えるほどだった。
でも、1つだけ気になることがあった。
そこにいる男性スタッフが気になったのだ。
彼はシャンプーを専門にやっていた。
まだ、入って日も浅いのかもしれない。
Aさんは、別の女性スタッフからシャンプーをしてもらったので、その男性スタッフと関わることはなかった。
関わっていないのだから、接客態度云々の話ではない。
その男性スタッフのおかしい点に気が付いてしまったのだ。
いや、正確に言えば男性スタッフにおかしな点はない。
むしろ、真面目そうな好青年だった。
何がおかしいのかというと、その男性の両隣に幼い男女がベッタリとくっついているのだ。
最初は、そのスタッフの子供だと思った。
若いパパなのだろうと思っていた。
でも、新人スタッフが子供を連れて働けるものなのだろうか。
店長クラスならある程度の自由が利くかもしれないが、新人スタッフにそんな自由が与えられるのかは疑問だ。
さらに、その子供たちはAさん以外に見えていないようなのだ。
Aさんの目には、子供たちの姿がはっきりと見えている。
だから、幽霊の類であるというのは信じられない。
なぜ、Aさんにしか見えていないと思ったのかと言えば、別のスタッフに子供のことを聞いてみたからだ。
「あの子たちは、誰の子なんですか?」
でも、尋ねられたスタッフは不思議そうな顔をしている。
「子供?どこにいるんですか?」
おかしな返答だ。
そして、他にもおかしな点に気が付いた。
その子供たちはときどき、例の男性スタッフに噛み付くのだ。
甘噛みというレベルではない。
まるで、フライドチキンでも食べているかのように噛り付くのだ。
齧られると痛みがあるのか、男性スタッフはその度に顔を顔をしかめていた。
いろいろと気になることがある者の、Aさんにはどうすることもできなかった。
・・・・その後。
Aさんは、その美容室に行ってみたことがある。
そのときには、例の男性スタッフの姿はなかった。
他のスタッフに、さりげなく聞いてみる。
すると、こんな返事が返ってきた。
「ああ、それT君のことですね。T君、急に無断欠勤が多くなって、1年前くらいに辞めちゃいましたよ。」
1年前というと、ちょうどAさんがその店に行った頃だった。
そして、そのスタッフは内緒話も聞かせてくれた。
「噂ですけど、T君は亡くなったって噂があるんです。最後の方、すごく顔色悪かったから。あ、これ内緒ですよ。」
口の軽いスタッフだったようだ。
気になるのは、その噂が本当だとしたら。
あの子供たちは、死を招く子供ということになるのだろうか。
Aさんはそれ以来、その美容室には行っていない。