これはある男性が体験した話。
俺は、いつも男ばかりとつるんでいた。
そんな俺に、彼女ができた。
俺にはもったいないくらい可愛い女の子だった。
だが、嫉妬深いことだけが玉に瑕だった。
当時、真面目ではなかった俺は、悪友とのしがらみも多かった。
男同士の付き合いが、日常茶飯事。
その日も、肝試しに行くことになっていた。
男7人で、地元の有名な心霊スポットの廃病院へ向かったのだ。
ただ、彼女にはどうしても男だけの付き合いというものが理解できないようで、なかなか納得してくれない。
困った俺は、心霊スポットの廃病院に到着すると、証拠を残すことにした。
男7人で集合写真を撮影し、彼女にメールを送ったのだ。
さすがにこれなら理解してもらえるだろう。
心霊スポットでは、はしゃぎにはしゃいだ。
男だけで「ワーキャー」言いながら楽しんだ。
だが、仲間の1人Aだけが顔色が悪く、微妙に震えているように見えた。
俺は尋ねる。
「具合、悪いのか?」
「・・・・ここは、マジでやばい・・・帰ったほうがいい。」
Aの返事を聞いた他の仲間がひやかした。
「こいつビビッてるよー。」
でも、Aはそれで引き下がらない。
なおも主張した。
「女だ・・・・着物を着た女が、俺たちを追いかけてきてるんだ・・・・」
Aが怯える気持ちも理解はできた。
夜の廃病院は、確かに不気味だった。
その場の雰囲気に飲み込まれてしまう、Aの気持ちが分からないでもない。
今はそっとしておいてやろうと思った。
仲間たちも同じ気持ちになったのか、それ以上Aをからかう奴はいなかった。
そのとき、俺のポケットが震えた。
携帯に彼女からメールが入ったようだ。
中を見ると、「誰?この女?」と書かれている。
絵文字はなく、突き放すような態度に思えた。
女が誰だと聞かれても、意味が分からない。
ここには男しかいないのだ。
慌てて、彼女に電話する。
何か勘違いをさせてしまったようだった。
すぐに彼女は電話に出てくれたが、怒った様子だ。
「男だけで肝試し行くって言ってたのに!」
「ああ、男だけだよ。写真送ったろ?」
「じゃあ、○君(俺のこと)の隣に写っている着物の女誰よ?仲良さそうに腕なんて組んじゃって・・・・」
俺は絶句した。
どういうことだ。
腕を組むってどういうことなのだ。
全身が冷たくなっていくのがわかった。
俺は電話をいったん切ると、怯えていたAの元に走った。
そして、先ほどの着物の女について詳しく聞いた。
Aは答えてくれた。
なんでも、黒髪で、赤い着物を着ているらしい。
そして、俺はその女に気に入られてるらしいということを話してくれた。
姿の見えない女に気に入られても、嬉しくない。
俺は、この場にいるのは危険だと判断した。
とにかく、ここから離れなければ。
ここから離れようと、みんなを説得した。
みんな、最初こそ不服そうな顔をしていたが、わりとすんなり聞き入れてくれた。
Aに続いて俺までおかしくなったことから、その場所を不気味に感じ始めたのかもしれない。
その後、彼女に会ったときに例のメールを見せてもらった。
すると、確かに俺の隣には赤い着物を着た黒髪の女が写っていた。
表情は微妙にわかりにくかったが、ニターっと笑った顔で俺の腕をぎゅっと掴んでいるのが見えた。
その日以来、俺は心霊スポットに行くのをやめた。
Aと彼女がいなかったら、俺はどうなっていたのか分からなかったのだ。