Bさんは助手席に乗っていた。
車を運転しているのはAさんだ。
時刻は夕方だった。
車通りの少ない道を走っていると、前方にゆっくりと走っている車が見えた。
あのスピードは、時速30キロも出ていないだろう。
「遅せえよ。」
Aさんは心の中で呟きながら前の車を追い越した。
その瞬間、なんだか気分が悪くなった。
気味の悪いものを感じたのだ。
「今の気味の悪さは何だろうか?」
疑問を感じながら、ふとバックミラーを見た。
先ほど追い越した車が見える。
運転席には中年男性が座っているのが見えた。
助手席には、小学生くらいの男の子が座っているようだ。
だが、どうも少し様子が変だ。
その少年、髪の毛がボサボサだった。
バックミラー越しでも一瞬でわかるくらいにボサボサだ。
まるで原始人のようだった。
様子がおかしいと感じたは、少年の髪型だけではない。
少年は、大きな口をあけて大笑いしているのだ。
その笑い方が異様に見えた。
Aさんは、助手席のBさんに聞いてみる。
「なあ、後ろをゆっくり走っている車があるだろ? そこに、変な小学生くらいの少年が乗ってるの見えるか?あの少年、ちょっと変じゃないか?」
「え・・・・? ああ、いるね。男の子が。なんだか楽しそうに笑ってるな。・・・・あっ!」
Bさんも、後ろの車のおかしさに気付いたらしい。
その少年は大笑いしているのに、隣で運転している中年男性は無表情なのだ。
「・・・・俺さ。あの車、気味が悪い。あの少年、なんであんなに笑ってるんだよ? それに、今の日本であんなに髪がボサボサの子、見たことねえし・・・・」
Bさんが、そう言葉にしたときだった。
後ろの車が、急にスピードを上げた。
どんどん、加速する車。
Aさんの車は慌てて車線変更して、なんとか避けることができた。
後ろにいた車は、さらに加速していく。
ゆうに100キロ以上は出ていると思われた。
次の瞬間、車は横のガードレールに突っ込んで大破した。
もう少し距離が近ければ、Aさんの車にも被害が出そうなぶつかり方だった。
一本道で、ガードレールに突っ込むなんて。
Bさんは、青ざめた顔でぼそりと言った。
「今の見た?前の車が衝突するとき、横の少年がハンドルいじってた・・・・」
二人は、すぐに救急と警察に連絡した。
そして、大破した車から運転手の男性と、例の少年を救出しようと、近くに行ってみた。
だが、車内に少年の姿は見えなかった。
後から分かったことだが、この車の運転手は即死だったそうだ。
他に乗車している人間は居なかったそうだ。
あの少年はどこに消えてしまったのだろうか。