これは、タクシーの運転手から聞いた話。
そのタクシーの運転手さんを、仮に田中さんとしましょう。
ある日の深夜、田中さんは乗客を探して都内を走っていました。
すると、一人の乗客が見つかりました。
客は、西東京へ行って欲しいといいます。
現在地からは、距離があったため、おいしい客でした。
田中さんは、その客を乗せて走りだしました。
そして頭の中で、ざっと計算してみました。
「ここから、西東京まで行って帰ってくると、往復で約2時間か・・・じゃあ、この客で今日は最後かな。」
・・・無事にその客を目的地まで送り届けました。
次は戻らなければなりません。
東京(23区)に向けて車を走らせます。
少し走ったところで、手を上げている女性が前方に見えました。
「回送中」にはしていましたが、女性のそばに停車し、どこまで行きたいのかを尋ねました。
偶然にも、女性の行きたい場所は、田中さんが今向かっている場所(会社)のすぐ近くです。
一石二鳥とはこれのことかもしれません。
それなら、乗せない手はありません。
女性を車に乗せると、走り出しました。
でも、その女性客、なんだかおかしいのです。
まったく口を開かないのです。
話しかけてみても、返事がありません。
まあ、返事をしない客もときどきいます。
そういうタイプの客なのだろうと、気にしないようにして車を走らせます。
しばらく行くと、街灯の少ない一本道に差し掛かかりました。
そこで突然。
後ろに座っている女性客が、叫びだしたのです。
「ギュワアアアアーーーーー!!!」
あまりのことに、思わずハンドル操作を間違えそうになりました。
後に「思わず失禁しそうになった」と表現した田中さん。
それくらい驚いたのでしょう。
それでも平静を装い、どうしたのかと尋ねました。
「お客さん、どうしました?」
女性は返事をせずに、叫ぶのをやめません。
仕舞いには、運転席の後ろをガンガンを蹴り出しました。
もうここまでくると、田中さんは恐怖を感じていました。
とにかく、車を停車させることにしました。
ブレーキを踏み、もう一度尋ねます。
「お客さん、一体どうしたって言うんですか?!」
田中さんが後ろを振り向くと、女性の姿はありませんでした。
もちろん、車のドアは開けていませんし、窓すら開けていません。
車を降りて、後ろの座席を調べました。
でも、そこには誰も居ません。
運転席の裏側には、靴で何度も蹴ったような跡が無数に残っていました。
それが、車内に女性のいたという唯一の痕跡でした。
その日、田中さんはずっと震えていたそうです。
管理人がこの話を聞いたのはもうかなり前のことです。
この話を聞いた時に真っ先に思い出したのは、有名なタクシーの怪談です。
座席がぐっしょりと濡れていて客の姿はなかった、ってやつです。
今回ご紹介した話も、その定番の怪談に似ています。
でも、もっと攻撃的と言いますか、強い怨念のようなものを感じました。
座席を何度も蹴るなんて、運転手によほど強い恨みがあるんじゃないかと勘繰ってしまいます。