夏休みの実家にて

大学生のころ、実家暮らしをしていた。

夏休みのことだった。

明け方に俺が自室で眠っていると、部屋の戸の前で声がしたような気がした。

眠かったため、無視する。

・・・少しすると、また声がする。

眠気眼のまま、薄目を開ける。

「ねえ、ねえ、開けて。」

確かに部屋の前に誰かがいるようだ。

小声だけれど、弟の声だと思った。

でも眠かったため、返事をせずに無視をする。

「ねえってば、開けてよ。」

またもや小声で声が聞こえた。

なんだよ、眠いんだよ。

明日にしてくれよ。

心の中でそう返事をしながらも、部屋の戸を開けようとゆっくり体を起こした。

だがその瞬間に、背筋が寒くなった。

そうだった。

今、両親と弟は田舎に帰省中なのだ。

家には留守番の俺しかいないはず。

戸の外にいるのは、弟でも両親でもない。

仮に泥棒なら、小声で「開けて」なんて言うはずもない・・・

俺は耳をふさいで、タオルケットを頭からかぶった。

・・・いつの間にか眠ってしまっていた。

気が付くと日はのぼっている。

今朝の声は、幻聴だったのだろうか。

おっかなびっくり、部屋を開けてみる。

当然ながらそこには誰もいない。

床を見ると、見たこともない鍵が落ちていた。

なんの鍵だかわからない。

そもそも、現代風の鍵ではなくアンティークというか古臭い感じのものだ。

時代を感じさせる鍵だった。

鍵を見つけた瞬間、俺は鳥肌を感じた。

今朝の声は幻聴ではなく、誰かが本当に部屋の前にいたのではないかと思えたためだ。

「開けて」の声は、もしかすると俺の部屋の戸を開けて、という意味ではなかったのかもしれない。

この鍵を使って、どこかを開けろという意味なのかもしれない。

その後も、それがどこの鍵だかは分からなかった。

田舎から帰ってきた両親や弟も、そんな鍵を知らないという。

きっとうちの鍵ではないのだろう。

なぜそこにあるはずのない鍵が落ちていたのか。

そして、あの声の主は誰だったのか。

未だに謎のままだ。

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