10年近く前の話だそうだ。
その男性を仮に高橋さんとしておこう。
高橋さんは当時付き合っていた彼女と、とあるホテルに泊まったそうだ。
二人で一緒に風呂に入り、バスルームから出た。
すると、部屋が異様に臭いことに気が付いたのだとか。
「なんだこの臭いは?!」と思い、窓を開けて換気扇をつけたそうだ。
私(当サイトの管理人)が、「それは、どんな臭いだったんですか?」と尋ねると、高橋さんは表情を険しくして答えた。
「・・・・強烈な加齢臭です。後にも先にも、あんなに強烈な加齢臭は初めて嗅ぎました。」
続けて、そのときの様子を語ってくれた。
風呂に入る前は、そんな臭いはしなかった。
部屋は臭くなんてなかったのだ。
でも、風呂から出てみると異様な臭いが充満している。
そして、高橋さんは彼女の異変にも気が付いた。
彼女は風呂から出ようとしたときから、明らかに様子が変になっていた。
挙動不審とでも言おうか。
まず。脱衣所ではなく、バスルームで着替えをしている。
しかも、まだ体が濡れているのに服を強引に着ようとしているのだ。
さらには、彼女の足はガクガクと震えていることにも気が付いた。
高橋さんが、「どうしたの?」と尋ねると、真っ青な顔をしてか細い声でこう訴えてきた。
「早く逃げよう・・・」
高橋さんは意味がわからずに聞いた。
「え?どういう意味?」
彼女は首を振って答えたくないというジェスチャーをした。
それでも尋ねると、「ベッドの上・・・」とだけ返事をした。
高橋さんはすぐにベッドの上を見た。
何もない。
一応、部屋の中を見渡したが何もない。
彼女はその間にも、荷物を持って部屋を出ようとしていた。
「ちょっと待ってよ。なんで出るの?」
高橋さんが止めても、彼女は部屋を出てしまった。
当然彼女を追いかけて、高橋さんも部屋の外に出た。
そして、もう一度同じことを聞いた。
「なんで部屋を出るの?」
部屋の外では、理由を話してくれた。
彼女が言うには、ベッドの上に汚いおじさんが寝ているというのだ。
もちろん、そんなおじさんは寝ていなかった。
というか、高橋さんには見えないと言った方が的確な表現なのかもしれない。
彼女に霊感があるのかと言えば、今まで霊を見たことはないらしい。
そもそも彼女は、そのおじさんを霊だとは思っていないようだった。
危ない人が部屋に入ってきたと思い怯えていたのだ。
高橋さんは彼女を説得し、もう一度部屋に戻ってみた。
彼女曰く、まだおじさんは寝ているという。
高橋さんにはそれが見えない。
だが、強烈な加齢臭だけは感じることができる。
だから、彼女の言うことを信じることができた。
すぐに二人でフロントまで行き、部屋を変えてほしいと申し出た。
対応してくれたのが、ベテランのスタッフさんだったらしく、すぐに別の部屋を手配してくれた。
理由は一切聞かれなかった。
移動した部屋は快適で、何の問題もなかった。
ここまで話を聞いたところで、私は高橋さんに聞いてみた。
「幽霊っていると思いますか?」
高橋さんは困ったように笑いながら答えた。
「いないと思います。と、答えるのが大人の返答でしょうね。でも僕はこの体験をしてますからね。いるかもしれないな、とは思いますね。もし幽霊がいないとなると、僕の体験の説明がつきませんからね。」