異世界というのは、本当にあるのだろうか。
これはある人から聞いた話。
もう10年以上前の話。
当時、俺は大学生だった。
大学の友達で、Aくんという男がいた。
Aくんは、ある日突然いなくなってしまった。
一応、失踪ということになっている。
俺の知る限り、未だにAくんは見つかっていないと思う。(詳しいことは分からない。なにせ、大学卒業以降の情報が入ってこないから)
Aくんは、学生ローンでギリギリまで借金をしているようだった。
そのため、借金が返せなくなり姿を消してしまったのではないか、という噂が流れた。
だが、俺はそうは思っていない。
というのには理由がある。
その日、俺は大学のすぐそばでAくんを見かけた。
知り合いだから、当然話しかける。
お互いに時間があったものだから、俺たちは近くのファストフードでお茶を飲むことにした。
少し雑談をすると、Aくんは「ちょっとトイレに行ってくる」と席を立った。
そのまま、Aくんは席に戻ってこなかったのだ。
そのとき俺は、Aくんはそのまま帰ってしまったのかと思っていた。
彼は少しだけ気まぐれなところがあったためだ。
俺はたいして気にすることなく、大学へと向かった。
だが、数日後にAくんが行方不明という噂が流れ始めた。
そのときになり、俺は焦った。
もちろん、警察にも相談に行った。
だが、そこに事件性は感じられないとして、捜査できないと言われてしまった。
トイレに立ったまま、失踪してしまうことなどあるのだろうか。
事件なのか、事故なのか・・・
でも俺は、全く違うことを想像してしまっている。
最後にAくんとファストフード店で話をしたときに、おかしなことを聞かれたのだ。
「もしもさ、異世界への入り口を見つけたら、お前行ってみる?」
これを真剣な顔で聞かれた。
俺がそのとき、なんて答えたのかは覚えていない。
ただ、「こいつ、おかしなことを聞く奴だな」くらいにしか思っていなかったのだ。
その後、まさか消えてしまうなんて。
今でも、Aくんがどこに行ったのかは、分からずじまいだ。