あれは、かれこれ10年近く前のこと。
俺は高校時代の友達と遊んでいた。
友達の家は、俺の住んでいる地域から2つ区を越える。
当時20歳だった俺は、2つくらいの区なら自転車ですいすい行ってしまう。
その日、友達と別れたのが深夜1時を過ぎていたと思う。
次の日は特に予定もなかったため、のんびり自転車を漕いで帰宅していた。
俺はなぜか、普段通らない道を通っていた。
普段通らない道を選んだのかは自分でも分からない。
きっと、道は知らなくても、方角さえ合っていれば家に着くだろうと、思っていたのだろう。
その考えは間違いだったのかもしれない。
自転車をいくら漕いでも、一向に知ってる道に出ない。
これだけ進めば、そろそろ知っている道に出てもいい頃のはずだ。
俺は休むことなく、自転車を漕ぎ続けた。
そして、おかしなことに気が付いた。
同じ道を何度もグルグルしているようだ。
最初は、似たような景色の道に出ただけかと思ったのだが違う。
さっきと同じ道なのだ。
細い路地で小さな駐車場のある場所。
これで、たぶん3回目だ。
きっと、暗いから曲がる方向を間違えたのだと、自分に言い聞かせた。
自転車を漕ぎ続けた。
次は間違えない。
駐車場の先にある曲がり角を、さっきとは違う方向に曲がってみる。
しばらく進むと、やはり同じ駐車場に出てしまった。
これは完全におかしい。
それから、何度も何度も曲がる方向を変えてみたが、やはり同じ駐車場に出てしまう。
これは、まずい。
この時点でかなり怖くなっていた。
だが、そこにジッとしているわけにもいかない。
何度も何度も帰り道を探す。
もちろん、ずっと右だけや、ずっと左だけのような偏った曲がり方はしていない。
それなのに、いつの間にかその駐車場に出てしまう。
途中、トイレに行きたくなってきた。
周りにはトイレなどない。
仕方なく、その駐車場で立ちションをすることにした。
そしてまた自転車を漕ぐと、やはり同じ駐車場に出てしまった。
一応確認してみたが、そこには先ほどの俺がした立ちションの跡が残っている。
間違いなく、同じ場所に出続けているのだ。
時計を見ると3時になっている。
携帯は圏外だ。
ネットも繋がらない。
どうしていいかわからず途方に暮れた。
ずっと自転車を漕ぎ続けた上に、心を恐怖が支配している。
心身ともに、参ってしまったのかもしれない。
俺は駐車場に自転車を停めると、地面に座り込んでしまった。
なんだか、ここで死ぬのも悪くないような気になってしまっていた。
ふと見ると、駐車場に一人の女の人が立っている。
いつから立っているのか。
今来たのか、それともさっきからいたのか。
物音一つ立てずにその女はそこにいた。
俺は藁にもすがる思いで、女の人に話しかけた。
「あの、ちょっと道を聞いたもいいですか?迷ってしまって。」
「・・・・」
「あの、この辺りは道が複雑なのか、なんど曲がってもこの駐車場に出てしまうんです。」
「・・・・」
「あの、聞いてます?」
「・・・・」
「あのッ!」
「・・・・出たいんですか?ここから。」
冷たい声だった。
俺は思わずゾッとした。
その声を聞いて、俺は震えそうになりながらも言った。
「早く家に帰りたいんですよ。」
すると女の人は小さく頷いた。
そのとき、クラッとめまいがした。
次の瞬間、女の人は消えていた。
たぶん、めまいを起こしたのは一瞬だったと思う。
確信は持てないが、長くても4~5秒以内だったと思う。
その間に女は消えていた。
そして、顔を見たはずなのだが全く思い出せない。
俺は、すぐに自転車に飛び乗り、漕いだ。
疲れているのを忘れて、立ち漕ぎで自転車を前進させた。
すると、今度はすぐに知っている道にでた。
そこから帰宅するのはとても簡単だった。
ようやく、家に着いたときには4時半を過ぎていた。
約3時間、彷徨っていたようだった。
無事に帰宅できて本当に良かった。
後日、友達にこの話を聞かせると、「お前、途中の道で寝てたんじゃないの?」と言われてしまうことが多い。
信じてもらえないのだ。
だが、俺はあの日、確実に違う世界に迷い込んだと思っている。
迷ったあたりの地図を見ても、あの駐車場は載っていないのだ。
一人で行くのが怖いから、友達を連れて昼間の明るい時間帯にその辺りを探索してみた。
だが、あの駐車場を発見することはできなかった。