怪しい妖艶な女とおばあちゃんの守護霊

これは、中学一年のときの話。

あのころ真面目な方ではなかった俺は、悪友とばかり遊んでいた。

いろいろと悪さもした。

デパートで万引きしたり、弱そうな奴見つけてカツアゲしたりと、今思えば決して褒められるようなことはしていなかった。

そんなある日のこと。

友達のYと、工場跡地のような場所にたむろし、いろいろ喋っていた。

そこは人気がなくてたむろするのにちょうど良いのだ。

好きな女の話だったり、最近読んだ漫画の話だったりを話していたと思う。

気が付くと、そろそろ日が暮れる頃だ。

辺りは、夕焼けに染まっている。

俺たちは、その工場跡地を離れ、別の場所に行くことにした。

ここは日が沈むと明かりがなくなり、完全な闇に包まれてしまうのだ。

真面目ではなかったとはいえ、実は結構怖がりだった俺たち。

夜の人気のない場所にずっといるは嫌だった。

工場から離れ、街に続くこれまた人気のない一本道を二人で歩いていた。

そのときだった。

突然、どこから現れたのか、とんでもなく綺麗な女が目の前に立っているではないか。

その女を、なんと表現すればいいのだろうか。

妖艶な女。

魅惑的。

超可愛い。

どの言葉でも言い表せないくらい、素敵な人だった。

歳は20歳前後くらいだろうか。

中学生からすれば、すっごく大人に感じたがよく分からない。

その女は、こちらを見てにっこりと微笑んでくれた。

その顔がまた異常なほど美しく、俺たちは一瞬でメロメロになる。

Yは、その女に小走りで近づいていき言った。

「お姉さん、めっちゃ可愛いですね!」

女は、返事をしてくれた。

「ふふふ・・・ありがとう。」

そして、こう続けた。

「ねえ、君たち・・・・これから、私のところに来ない?」

今考えれば、誘拐されそうな展開だが、すでに彼女の魅力に骨抜きにされていた俺たちは有頂天になった。

こんな大人の綺麗な女が、中学生の俺たちを相手にしてくれると思うと、心の中でガッツポーズをきめたくなる。

「え?行っていいんすか?!いやー、すげーラッキーだわー。」

俺たちは満面の笑みで口々に言った。

お姉さんは、「私についてきて」というジェスチャーをとると、優雅に先頭を歩き出した。

俺たちは後についていきながら、頭の中ではエッチな妄想をして下半身を膨らませていた。

しばらく歩いていると、見慣れない景色になってきた。

はて。

ここら辺はこんな景色だったっけか。

地元と言ってもいつも同じ道ばかり通っているため、少し奥の道に入ると、もう道がわからなくなる。

でも、今はそれどころじゃないのだ。

なんといっても、こんなに楽しいことは人生初だ。

景色のことなどどうだっていいのだ。

Yは、こちらにいやらしい笑みを浮かべて目配せしてくる。

「ラッキーだなー。」

という意味らしい。

それから10分ほど歩いただろうか。

もう、俺たちは全く知らない場所を歩いていた。

この状況、少しは警戒すべき状況なかもしれない。

だが、俺たちは全くと言っていいほど警戒知らずだった。

それだけ、目の前の女には男心を狂わせる何かがあったのかもしれない。

ふと、気が付くと、2つの分かれ道にたどり着いた。

女の人は、左の道へ行くらしい。

俺たちもそれについていく・・・

ついていく・・・・

なんだ。

誰かが、俺の腕を掴んで進めない。

Yじゃない。

Yは、掴まれた腕とは反対側にいる。

突然腕を掴まれたのに、嫌な感じは少ししなかった。

むしろ、温かいものに包まれるようだった。

見ると、そこには・・・・おばあちゃんが立っていた。

俺は、我が目を疑った。

おばあちゃんは、5年前に他界しているのだ。

両親共働きで、おばあちゃんが俺の親代わりをしてくれた。

いわば、俺の本当の意味での親のような存在がお婆ちゃんだった。

「・・・・なんで?おばあちゃんがいるの・・・?」

俺は聞いた。

おばあちゃんは、優しい顔でこちらを見つめている。

でも、俺の腕だけは決して離さない。

美人の女の人とYは、俺のことを放ってスタスタと進んでいく。

俺は、美人の女の人についていきたかったけれど、おばあちゃんに会えた喜びの方が数段大きく、もうそれどころではなくなっていた。

一瞬迷いはしたが、大きな声で言った。

「あ、すみませーん。あの、俺。用があって。 行けなくなっちゃいました!ごめんさなさい!」

そして、Yには「俺は行かないから、お前、上手くやれよ。」と目配せとジャスチャーをした。

Yは、エロの塊のような顔でこちらに目配せを返してくる。

女の人はというと、相変わらずとんでもなく整った顔立ちをこちらに向けた。

だが、その目は背筋が凍りつくのではないかというくらい冷たかった。

俺は全身にトリハダを感じた。

あの人・・・いったい何者なんだ・・・・

俺は、恐怖を感じながらも横を見た。

おばあちゃん。

嬉しい。

ずっと会いたかった・・・

中学一年にもなって、俺は、おばあちゃんに抱き付いた。

おばあちゃんは、何も言わずに優しく俺の頭を撫でてくれた。

温かくて、懐かしい・・・・

そう感じた、次の瞬間だった。

目の前が急に眩しくなった。

目を開けていられない。

何度も瞬きをし、涙目になりながらも目を開けようと頑張った。

でも、ダメだ。

眩しすぎる・・・・

そして、俺の意識は遠のいていった・・・・・・・・

・・・・・・・気が付くと、そこは病室のようだった。

傍らには、心配そうな顔の母親が俺の顔をのぞき込んでいた。

俺が目をあけると、泣きながら喜んでいるようだった。

眠い。

俺は、もう一度目を閉じ、また深い眠りについた。

・・・・その後、分かったこと。

あの日、俺とYは、工場跡地から移動するときにトラックに撥ねられたらしい。

何も覚えていないが、二人ともトラックに撥ねられて病院に担ぎ込まれたそうだ。

Yは死亡。

俺は、緊急オペの後、意識不明の状態が数時間続いたが、意識が戻ったということだった。

あの女の人とのことは、すべてが夢だったのだろうか。

いいや、俺ははっきり覚えているんだ。

あのときのことを・・・そして、おばあちゃんの温もりを。

きっと、あの女は、俺たちをあの世に連れていくつもりだったのではないだろうか。

それをお婆ちゃんが守ってくれたのだ。

きっと俺の守護霊でいてくれている気がする。

あの日から、ときどき「守られている」と感じるときがあるんだ。

お婆ちゃん、本当にありがとう。

出来の悪い孫だけど、あの日から俺は悪さを止めたよ。

これからもよろしくね。

スポンサーリンク