これは、私が転職する前の会社で体験したことです。
その会社はいわゆるブラック企業で、毎日仕事は山積み。
就業時間内に終わるような仕事量ではありませんでした。
毎日のように残業か家へ持ち帰りで、へとへと状態です。
そんなある日のこと。
私は会社で残業をしていました。
他にも同じオフィスには数名残っていたのですが、時間の経過とともに減っていきます。
気が付くと時刻は11時近くです。
そのフロアにいるのは私だけになっていました。
もういい加減帰ろう。
そう思ったときです。
突然の金縛りに襲われました。
全身が全く動かなくなってしまったのです。
意味が分かりません。
最近、疲れていたからでしょうか。
そう考えていると、今度は私の足に何かが這っているような感覚を覚えました。
蛇・・・?
言葉で言い表すことができない、不気味な何かが這っています。
その何かは、ズリズリと私の身体を這い上がってきました。
ついに首元まで来てしまいました。
そして、ゆっくりとですが確実に私の首を絞めているのです。
もう、怖くて怖くて叫びたいし、助けを呼びたいのですが、金縛りは一向に解ける気配はありません。
どんどん苦しくなってきます。
ああ、私はここで死ぬのかもしれない。
私が諦めそうになったとき、誰かが私の肩を叩きました。
その瞬間に金縛りが解けたのです。
助かった!
私はすぐに後ろを振り向きました。
真後ろには、びっくりした顔の警備員さんが立っていました。
メガネをかけた警備員さんでした。
「あの、苦しそうにしていましたが大丈夫ですか?」
「ああ、はい!お声をかけて頂いてありがとうございます!本当に助かりました!」
必要以上に感謝している私の態度に、驚いた様子の警備員さんだったのですが、
「お疲れなんじゃないですか?あまり無理なさらないでくださいね!」
と言ってくれました。
そのまま、警備員さんは戻っていきました。
あのままだったら、死んでいたかもしれません。
先ほどの得体のしれない何かに、殺されていたかもしれないのです。
そう考えると、あのメガネをかけた警備員さんは命の恩人です。
帰り際警備室に行き、もう一度お礼を言おうと思いました。
私はPCの電源を落とすと、荷物をまとめて帰り支度を。
そして、その足で警備室に顔を出しました。
ノックをして中に入ると、中年の男性が椅子に座っていました。
「あの、すみません。もう一人の方はいらっしゃいますか?」
「はあ?もう一人と言いますと?」
「さきほど建物を巡回されていたもう一人の警備の方?」
「さきほどですか?何時くらいのことですか?」
怪訝そうな表情の警備員さんを気にすることなく、私は答えました。
「10分くらい前のことです。」
「10分?ここ数時間は、警備員は私一人しかいませんよ。」
「そんな。絶対いましたよ。メガネをかけた方!」
「うーん、あのですね。うちの警備員でね、メガネをかけた奴は働いてないんですよ。」
絶句。
さっきの人は誰だったのでしょうか。
もしかして、助けてくれたのではなくて、あの人が私の首を絞めていたのでしょうか。
いいえ。
きっとあのメガネをかけた警備員さんは、私を助けてくれたに違いありません。
そうでないと怖くなってしまうので、プラスに考えるようにしています。