これは、実際に体験した話です。
怪談や怖い話というよりは、不思議な話に分類されるのではないかと思います。
私が、中学二年生のときに担任だった先生(仮に田中先生)は、男性でした。
田中先生は、私のクラスの担任をしてくれているときに結婚しました。
当時私はクラスの学級委員をしており、クラスの代表で結婚式に参加させて頂きました。
みんな大人ばかりの空間で、中学生は私ともう一人の男子学級委員のみ。
とても緊張しましたが、初めての結婚式参加に感動も一入(ひとしお)でした。
結婚式の引き出物として、オルゴールを頂きました。
手巻きのオルゴールで、限界まで巻くと三分ほど綺麗な音色が流れます。
素敵なプレゼントをもらい、喜んでいました。
それから、月日は流れ、私は大人になりました。
そして、ある日の夜。
明日も早いし、そろそろ寝ようかな思ったとき、突然オルゴールの音が聴こえてきました。
びっくりして小さく悲鳴をあげてしまいました。
音は棚の上から聴こえてくるようです。
棚の上には、18年前に田中先生の結婚式で頂いたオルゴールが置いてあります。
そのオルゴールが鳴っているようでした。
手巻きのものなので、巻かない限りは鳴らないはずです。
記憶にある限り、そのオルゴールはもう何年も巻いていません。
一人暮らしの私の家で、他の人が巻くことも考えられません。
ですが、それは約三分ほど鳴り続けたのです。
三分と言えは、限界ギリギリまで巻いた状態のはずです。
私は怖さ半分、不思議さ半分のなんとも言い表しにくい気持ちになりました。
それから、更に二ヶ月たったある日のこと。
中学時代の友達から久しぶりの電話がかかってきました。
しばらく、世間話をしていたのですが、友達は思い出したように言いました。
「そういえば、知ってる?中学のときの田中先生、亡くなったらしいよ。」
私はとても驚きました。
「え?なんで?いつ?」
「私も聞いた話だから詳しくないけど、がんだったみたい。田中先生、がんになるにはまだ若いでしょ?だから進行も早かったんだって。」
あの田中先生が亡くなったなんて・・・信じられませんでした。
その後、私は中学時代の他の友人たちに電話をしました。
田中先生の死は事実のようでした。
そして、驚くべきことが分かったのです。
田中先生が亡くなられた時間というのが、私の部屋のオルゴールが勝手に鳴り続けた時間とほぼ同じだったようなのです。
なぜそれが分かったのかと言いますと、先生の家の近所に住んでいる友達がいて、先生が亡くなったときのことを詳しく知っていたのです。
同時刻に音色を奏でたオルゴール。
これは偶然でしょうか。
私はこの事実を知って、不思議な気持ちと共にとても悲しい気持ちになりました。
もしかすると先生は自分の最期を、私に知らせにきてくれたのかもしれない、と思ったのです。
なのに、私は気が付かずに恐がってしまいました。
私は、すぐに先生のお家に伺い、お線香をあげさせていただきました。
先生の遺影は、あの頃と何も変わずに優しい笑顔でした。