これは、女性のAが体験した話。
ある夜。
Aは友達2人と一緒に、とある廃墟に肝試しに行こうという話になった。
その廃墟は、地元じゃそれなりに有名な心霊スポットだった。
怖いことが大の苦手なA。
本当は、断りたかった。
だが、友達2人がノリノリなものだから断りきれなかった。
廃墟は、元はお屋敷と呼べそうな建物だ。
噂によれば、そのお屋敷に誰も住まなくなったのは、そこにかつて住んでいた一家は惨い死に方を遂げたという話である。
一家は呪われていたというのだ。
心霊スポットにありがちな、都市伝説かもしれない。
本当か嘘かは分からないが、Aたち3人が怖がるのには十分なスパイスだった。
廃墟の扉には鍵がかかっていたが、窓は壊されていた。
そのため、中にすんなりと入ることができた。
懐中電灯で照らした室内は、埃っぽい。
長年、誰も住んでいないのがよくわかる。
3人がある部屋にたどり着いたとき、床におかしな染みがあることが気が付いた。
その染みは、くっきりと人の形をしていた。
人型の染みは、黒く変色はしている。
血の色と言われれば、それらしくも見える。
それを見た瞬間に、Aは鳥肌を抑えることができなかった。
あまりの恐怖に、失神しそうになりながらも、横の2人を見た。
横の2人は、言葉はないが、怖がっているようだった。
暗がりでも分かるくらい恐怖に引きつった顔をしている。
誰が言い出すわけでもなく、3人は自然に出口へと足を運んだ。
いつの間にか、みんなは走り出していた。
軽く息を切らしながら、何とか無事に脱出できた。
さっきの人型はなんだったのだろう・・・・?
あんな不気味なものを見てしまうと、俄然「一家は呪われていた」というのが真実のように思えてきた。
とにかく、今日は帰ろう。
みんなは一人になりたくなくて、その日はみんなAの家に泊まった。
・・・次の日の夜。
Aが自室のベッドで眠っていると、急に重たいものが身体の上に乗っかったような感覚に襲われた。
金縛りだろうか・・・・
Aは瞬間的にそう思った。
力いっぱい動こうとしても、身体はピクリとも動かない。
なんとか、目だけは開けることができた。
次の瞬間、Aはとんでもないことに気がついてしまった。
自分の寝ているベッドの隣に、誰かが横になっているのだ。
この部屋には、Aしかいないはずなのに。
誰かが隣で横になっている。
耳を澄ますと、隣にいる人の息遣いもはっきりと聞こえた。
誰っ?!
Aは恐怖心に支配されていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どれくらい、時間が経ったであろう。
怖さの中でのその時間は、Aにとっては永遠にも感じられた。
突然、ふっと身体が軽くなり、手足に力が戻った。
身体が動く。
窓の外を見ると、うっすら明るくなり始めていた。
そのとき、Aの携帯が突然鳴り出した。
こんな時間に誰?
またもや襲ってくる恐怖心。
恐る恐る、携帯を見てみた。
すると、一緒に肝試しに行った友人の1人からのメールだった。
メールの中身を見てみると、こんなことが書かれていた。
「今ずっと金縛りにあっていて、私の寝ている隣には、誰かがいたの・・・・これ、心霊スポットへの肝試しが関係しているのかな・・・?」
Aとまったく同じことが、友達にも起きていたのだ。
念のため確認してみると、もう1人の友達も同じ時間にまったく同じ現象を経験していたという。
その日の昼間、Aたち3人は花屋さんで花を買い、例の廃墟の前まで行った。
お花を供えて、必死で謝った。
「肝試しなんかで、あなたの眠りを妨げて、本当に申し訳ありませんでした。」
3人とも泣きながら謝罪した。
そのお陰か、その後何事もなく暮らしている。
あの金縛りは、霊が何かを警告しに来たのかもしれない。