祖父の死と揺れる人影

ある女性の体験談です。


小学校4年生の夏休み、プールから帰宅すると、大叔母から私の祖父が自殺をしたとの連絡が入りました。一人暮らしをしている部屋で、首吊り自殺をしていたとの事でした。母方の祖父母は、祖父の鬱病が原因で熟年離婚をしており、祖父とは疎遠になっていました。

遺体を発見したのは大叔母で、心を病んでいる祖父の様子を定期的に見に行ってくれていたそうです。死後一週間が経過しており、警察が捜査をしに入るとの事で、それらが全て終了してから祖父の葬儀が行われました。

祖父はとても優しく、私と兄を大切にしてくれました。鬱病の症状は酷いものだったようですが、まだ小さかった私は、なぜ大好きな祖父と祖母が離れ離れになってしまうのかが理解出来ずにいました。離婚するまでは、兄と一緒に相撲や双六をして遊び、日本昔話のビデオを一緒に見て過ごしたりしていました。

そんなある日、母から「じいちゃんと、ばあちゃんは離婚するから、裁判所に行くよ。あんたも来なさい」と言われ、一緒に家庭裁判所に行きました。よくわからない事を、偉い人が話しているなあ、くらいにしか思っていなかったのですが、最後に祖父が「家族よりも金のが大事や」と言っていたのが印象的でした。

その日から祖父には、ほとんど会えませんでした。たまに小学校に私達兄弟の様子を見に来ては、不審者と間違えられて職員室に呼ばれたりもしていましたが、私たち兄弟にとってはとても優しいおじいちゃんだったのです。

祖父の葬式を済ませ、火葬場へ向かっている最中、車の中からぼんやりと外を眺めていました。祖父の遺体を見てしまった事で、一種の現実逃避をしていたのだと思います。葬儀屋さんが処理をしてくれた後とはいえ、腐敗が進み、伸びきった舌を口の中に入れ込む事も出来ずに、無残な姿で棺桶に入っていた祖父の顔がこびりついて離れなかったのです。

信号待ちをしている間、道路沿いの平屋の一軒家の中に男性の影が見えました。影はゆらゆらと揺れており、何かに吊るされているようにも見えました。よく目を凝らしてみると、その影は首を吊った男性の姿だったのです。後ろ姿しか見えなかったのですが、なぜかその男性がこちらをじっと見つめているように思えたのです。恐怖を感じた私はすぐに目を瞑り、車が発進するまで目を開けませんでした。

それからの記憶は曖昧で、火葬場で焼かれた祖父の喉仏が、綺麗に残っていた事しか覚えていません。あれから十年以上時が経ちますが、あの時の男性は本当に首を吊って死んでいたのか、それとも祖父が死んでしまったショックから、幼かった私の心が生んだ幻だったのか、今となってはわからないままです。

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