壁を叩く音

女性の体験談です。


私が通っていた大学には、サークルや部活の合宿用の宿泊所がありました。

大学の裏手にあるO山という山の麓に建てられており、校舎から歩いて5分ほどのところにありました。

宿泊所と言っても立派なものではなく、2階建ての小学校の校舎のような古い建物でした。超格安で利用できるというのと、部屋で酒盛りをして良いと言う好条件だったため、万年金欠の大学生にはありがたい施設でした。

私が2年生の頃、あるサークルの夏合宿で初めてこの施設を利用しました。

建物は鉄筋コンクリート造りで、1回は家庭科室のような調理場と食堂、洗濯室と風呂があり、2階は4つの和室があります。

サークルメンバーは合計で20名以上いましたので、ちょうど良い人数で4部屋に入ることができました。

私が入った部屋は一番右端の部屋で、一緒になった同級生や先輩が酒豪ばかりだったので、夜は楽しくなるとワクワクしました。

合宿初日の夜は全員でバーベキューをし、希望者のみ翌日に差支えない程度に部屋で飲むことを許可されました。

当然ながら右端メンバーは全員オールで酒盛りをしようと意気込んでいました。

近所のスーパーで買い込んだ酒やおつまみを広げ、覚えたての酒の味に酔いました。

夜の12時を回った頃、同級生の一人が言いました。

「なんか今、コンコンって聞こえなかった?」

何を言っているんだろう、と思いました。それは私だけでなく、他の生徒も同じだったようですが、一瞬の静寂の中に…

コンコン……

と、確かに何かを叩くような音が聞こえて来ました。ほんの小さな音でしたので、聞こえなかったという人もいましたが、何人かの耳には届いており、「あ、確かに聞こえたわ」とみんな口々に言い始めました。

私の耳にも音は届いており、無意識のうちに音の発信源を探していました。

音は、部屋の壁から聞こえていたような気がします。ちょうどその壁は、隣部屋とこちらの壁を隔てているものでしたので、私たちの酒盛りの声がよっぽどうるさくて、苦情代わりに隣部屋の人が壁を叩いたのだろうと思いました。

だったら直接言ってくれればいいのに……と当時の私は自己中心的な考え方をしていたものです。その日の夜は、特に何もなく皆いつの間にか酔い潰れて眠ってしまいました。

翌日。朝食の席で隣部屋の先輩と同じテーブルについたので「昨夜はうるさくしてすみません。うるさい時は壁を叩かないで直接怒鳴り込んできて叱って下さい。ごめんなさい」と先輩に謝罪をしました。

しかし先輩は目を丸くして

「え?壁なんて誰も叩いてないよ。昨日はみんな疲れて爆睡してたから」

と言いました。他の生徒にも確認を取ってもらったら、やはり誰も壁を叩いていないと…。

では、あの「コンコン」という音はなんだったのだろう。右端部屋の連中は言葉にはしませんでしたが、なんだか嫌な予感がしていました。

そして。その日の夜、私たちは適当に部屋で酒を飲み、23時を回った辺りに布団に入りました。しん…と静まり返った室内に、

コンコン……コンコン……

と壁を叩く音が聞こえて来ます。思わず目を開けて周りを見たら、みんな目を開けて顔を見合わせていました。

驚きの余り声を出せずにいると、音はさらに聞こえて来ます。

コンコン、コンコン、コンコンコンコン………

音は一か所ではなく、部屋中の壁や天井からも聞こえて来ました。真っ暗な部屋の中、まるで獣が動くように縦横無尽に音だけが響いてます。やがて音は、ただ叩くようなものではなく、もっと強いものに変化していきました。

ドンドン、ドンドン!

やばい。何か動いてる。何かいる。

誰も口にはしませんでしたが、私以外の人も同じことを考えていたと思います。誰も動けずにいましたが、ある先輩が電気を点けると、音はぴたりと止みました。

その夜は電気を点けて、全員眠らずに過ごしました。

朝になり、他の部屋に泊まっている生徒たちに昨夜の出来事を話しました。すると、

「実はさ、うちの泊まってる部屋でもたまに変な音が聞こえて来るんだよね」

「誰もいないはずなのに、なぜか視線を感じる時がある」

と言う生徒が数名いました。

皆の話をまとめてみると、右端部屋ほどでないにしろ、この合宿所で何かしらの怪異が起きているようでした。そして、それは日に日に不気味さを増しているようにも思える…

「これさ、なんかヤバいんじゃね?」

得体の知れない不気味さを肌で感じ、その日のうちに私たちは合宿を中止し帰宅しました。

あの夏以来、私たちのサークルではその合宿所を使う事はありませんでしたが、近くを通ると背中がゾクリとしたのを覚えています。

卒業してしばらくして聞いた話ですが、私たちと似たような体験をする生徒が他にもいたらしく、合宿所は使用禁止になったようです。

あの施設にいたものが何なのか、壁を叩いていたのは何者なのか、いまだに不明のままです。

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