管理人が知り合いから聞いた話。
僕が5~6歳のころ、とある地域に住んでいた。
家のすぐそばにはお寺があった。
僕が何か悪さをすると、母親は怒ってそのお寺に僕を放置した。
放置と言っても、時間にして30分くらいだったと思う。
でも、当時の30分は数十時間にも感じられ、その罰はとても怖かった。
その寺はそれなりに広く、敷地内にはお墓もある。
あるときのこと。
僕が何かの悪さをしたのだろう。
母はお寺に僕を置き去りにした。
もう日も暮れかけており、普段よりも怖かった。
僕は泣きながらお墓のそばに座り込んだ。
すると、8~9歳くらいの女の子がこちらを見ていることに気が付いた。
その女の子は不思議なことに着物を着ていた。
綺麗な着物ではなく、なんというかちょっと小汚い感じの着物だった。
女の子は、僕に手招きをした。
怖い感じがしなかったので、僕は女の子のそばまで歩いていく。
泣いている理由を、女の子が聞いてきた。
僕はお母さんに怒られたのだと伝える。
すると女の子は、一緒に遊ぼうと提案してきた。
一人で心細かった僕は、首を縦に振る。
女の子は、お手玉のようなものを僕に教えてくれた。
お手玉とは少しだけ違うのだけど、基本的にはそっくりの遊びだった。
女の子は難しい言葉をよく使う子だった。
「家はどこなの?」と僕が聞くと、「○○池のそば。」と答えてくれた。
だけど、僕はその○○池を知らなかった。
家に帰り、両親に○○池のことを聞いてみたが、両親もその池を知らなかった。
「この辺りの地域ではないんじゃない?」と言われてしまった。
その女の子は、僕が怒られてお寺に連れていかれると必ずいた。
そして、僕と遊んでくれた。
楽しい時間だった。
でも、あるとき、僕は引っ越すことになった。
もしも親に怒られたとしても、もうお寺に放置の刑はなくなるはずだった。
確か引っ越しの前々日だったと思う。
僕は一人でお寺に行き、女の子を探した。
女の子はすぐに出てきた。
僕が、「引っ越してしまうからもう来られない」と伝えると、寂しそうな顔をしていた。
そのときに、母親が僕を探しにお寺の敷地内に入ってきた。
そして、僕は驚いた。
女の子は、突然にフッと消えてしまったのだ。
まるで、僕の母親に見られたくないという感じだった。
あまりに突然のことで、何が何だか分からなかった。
母親に「今の見た?」と聞いたが、母はきょとんとした顔で「何を?」と返事をしてきた。
あの女の子が、幽霊だったのかどうかは分からない。
ただ、自分が大人になり、あの女の子の言っていた「○○池」を図書館で調べてみたことがあった。
すると、明治時代に埋め立てられた池と書かれた資料を発見した。
そして、その池は当時僕が住んでいた家のすぐそばにあるらしかった。
どういうことなのか、さっぱり分からなかった。
なぜ、あの女の子が、そんな昔に埋め立てられた池のそばに住んでいるといったのか。
これは、僕が唯一体験した不思議なことだ。
だけど、怖さは全くなかった。
むしろ、一人で怖くて仕方なかった僕を救ってくれた、良い思い出だ。