管理人が人から聞いた話。
俺にはまったく霊感がない。
お化けとか幽霊とかそういう類いのモノは、一切見たことがない。
信じてもいない。
だが、長い人生を振り返ってみると、一度だけ常識では説明がつかないようなことを体験したことがある。
霊体験なのかどうかもわからない。
あれは、17才のころ。
高校二年のときに、コンビニでバイトをしていた。
家から自転車で40~50分離れたコンビニだ。
その日は確か、残業をさせられていた。
レジの調子が悪く、普段ならしない残業だったと思う。
結果として、帰りがいつもよりも一時間以上遅くなってしまった。
普段は22時に店を出るのだが、その日は23時半を過ぎていたと思う。
店から家までの道は、途中何度か大通りを突っ切るものの、基本的には人気のない道だ。
車通りも極端に少なく、街灯すらまばらだった。
怖がりの人だったら、怖くて通れないような道だ。
そんな夜道を、俺は自転車で走っていた。
しばらく進むと、道の端っこに小学生くらいの男の子がいるのが見えた。
一人で体育座りをしている。
10歳。
いいや、もっと下だろうか。
時刻は24時前後だったと思う。
男の子が座る場所のそばに民家はない。
一番近い民家でも数十メートルは離れている。
家の前に座っているというわけでもなさそうだった。
「こんな時間に、何してるんだろう。」
不思議には思ったものの、それほど気にせずに通り過ぎる。
少年は俺が通り過ぎていくのを、ジッと見ていたような気がした。
俺は少し進んでから、ふと後ろを振り向いた。
そして、全身に鳥肌が立った。
少年が俺のことを走って追いかけてきたのだ。
相手は10歳未満の子どもだ。
俺は17歳。
戦えば簡単に勝てるはずだ。
だが、そのときの俺は恐怖に襲われていた。
なにか異様なものを感じたのだ。
全力で自転車を漕いだ。
だが、少年の足は異常に速い。
こちらは自転車なのに、全然引き離せなかった。
もう数百メートルは走っているはずなのに、少年のスピードは一向に落ちないのだ。
それどころか、息も全く切らしていないのではないかと思えた。
振り返って何度も顔を見たが、少年は無表情だ。
息を切らしているようには見えなかった。
今思うと、不思議なことがある。
あの辺りは街灯が少ないはずなのに、なぜ俺は少年の顔がはっきりみえたのだろうか。
理由はわからない。
俺は後ろを何度も振り返りながら、死に物狂いで自転車を漕いだ。
そして、周りが全く見えなくなっていたんだと思う。
大通りに飛び出してしまった。
キキィィィーーーーーーーーーーーーーーーー
危うくタクシーに轢かれそうになってしまう。
クラクションも思いっきり鳴らされた。
タクシーは俺のことを大きく避ける。
危うく大事故になるところだった。
幸いにも、俺もタクシーも無事だった。
あまり覚えていないのだが、確かタクシーの運ちゃんにメチャクチャキレられたような気がする。
でも、そのとき俺はそれどころではなかったのだ。
子どもに追いかけられていて、怯えてしまっていたのだ。
そして。
轢かれそうになった直後に、後ろを振り返ったのだが誰もいなかった。
少年の姿がないのだ。
どこに消えたのだろうか。
少年の一連の行動は、まるで、俺の事故を誘おうとしているようにも思えた。
そう考えると、トリハダが終始止まらなかった・・・・
その後、あの少年を見かけたことはない。
あれから20年近く経ったが、あれがなんだったのか、全く分からない。
バイトの疲れで幻を見ていたのだろうか。
それとも、あれが幽霊だったのだろうか。
オチはないが、死ぬほど怖かったのだけははっきりと覚えている。