山小屋の窓から覗くマッドピエロ4

前回→山小屋の窓から覗くマッドピエロ3   (→1話から読む)

扉を叩いているのは、間違いなくさっきのピエロだ。

姿の確認をしたわけでもないのに、ピエロが扉を叩いている姿が目に浮かんでいた。

そして、俺の全身を恐怖が支配する。

部屋中回っても、電波が届く場所はない。

ドンドンドンドンドンドンドンドン

扉を叩くのを止めないのは、ここが電波の通じない場所だと知っているからだろうか。

警察が来られないことを、知っているのかもしれない。

俺たちは、どうしたら良いのか分からなかった。

突然、友達が動いた。

何を思ったのか、スタスタと玄関の扉の前に行った。

そして、震えた声を出した。

「あ、あの~・・・どちら様ですか・・・?」

もしかすると、近隣住人が訪ねてきたのではと考えたのかもしれない。

むろん、この異常なドアの叩き方からして考えられないことではあるが。

外からは返事がない。

相変わらず扉を叩くだけ。

ドンドンドンドンドンドンドンドン

ドンドンドンドンドンドンドンドン

「あ・・・あの~・・・いい加減やめてもらえませんか・・・か、帰ってください・・・」

相変わらず震えた声だ。

ドンドンドンドンドンドンドンドン

ドンドンドンドンドンドンドンドン

ドアを叩く音は鳴りやまない。

友達はその場にへたり込んで、下を向いてしまった。

泣いているように見えた。

大げさかもしれないが、俺には友達が生きることを諦めたようにも見えた。

ここで座り込むなんて、俺にはできない。

恐怖で足はガクガクだったけれど、何かあったらすぐに逃げ出そうと思っていた。

・・・・時間の感覚が分からない。

だが、いつの間にか扉と叩く音は止んでいた。

手には携帯を握りしめてはいたが、時間の確認はしていない。

無性にトイレに行きたかった。

でも、体は動かない。

もう、漏れるか、膀胱が破裂するのではないかというくらいの尿意だった。

それでもトイレに行く勇気はなかった。

最悪の場合、漏らせばいいくらいに思っていたのかもしれない。

駄目だ・・・もうトイレが限界だ・・・

俺がそう思ったとき、友達もふとこちらを見た。

久しぶりに目を合わせた気がする。

「トイレ行かない?」

俺が誘うと、友達も力なく頷き、こう言ってきた。

「俺、ちょっと漏らしてるよ。」

漏らしてると言われても、汚いとは感じなかった。

ダサいとも思わなかった。

この状況なら当然だ、くらいに思えた。

二人でトイレに行き、部屋に戻ってくる。

ソファーに座り、一息ついた。

座ってみてわかった。

足が棒のようだ。

ずいぶん長いこと突っ立っていたせいだろうか。

それとも、恐怖というのは体を疲労させるのだろうか。

そして。

座ったからといって、気を抜いてはならない。

危険が去ったわけではないのだ。

俺たちは朝まで起きていた。

お互いに無言だった。

・・・日が昇り始め、部屋に光が入ってくると、すぐに帰り支度を始めた。

言葉を交わさずとも、友達も同じ行動をとっていた。

こんな場所、すぐにでも逃げ出したかったのだ。

大した荷物はなかったので、すぐに準備が整った。

俺たちは、意を決して外に飛び出すと、走って山道を下った。

お互いに一睡もしていないし、疲れ切った身体だった。

だが、そんなことを言っていられる精神状態ではない。

バス停まで来たときに、はじめて足を止めた。

息が上がっていたが、辺りを見まわすのだけはやめなかった。

バスに乗り、しばらくすると駅に着いた。

俺たちは警察に電話すべきか、友達の親戚の人に電話すべきかを話し合った。

俺はすぐに警察を呼ぶべきだと主張した。

だが、友達は親戚の意見を聞きたいと言っている。

駅についた安心感からか、俺は友達の意見を尊重した。

親戚の人と友達は、電話でしばらく話し込んでいた。

電話が終わると、友達は申し訳なさそうに言った。

「とりあえず、警察への通報は待ってほしいってさ・・・」

俺は多少怒りがこみあげてはきたものの、今は家に帰りたかった。

疲れているのだ。

でも、それで正解だったのかもしれない。

警察でいろいろ聞かれるのには、ある程度の体力が必要だ。

でも、俺たちにその体力は残っていなかった。

その後。

警察への通報はしなかった。

だから、このことはうやむやになったままだ。

あのときのピエロはいったい何者だったのか。

そして、何が目的で別荘に入ろうとしていたのか。

今となってはすべてが謎だ。

終わり

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