前回→小学生夏休みの恐怖 家出と怪人3 (→1話から読む)
男の叫び声を聞くか聞かないかのタイミングで、俺は脱兎のごとく走り出していた。
とにかく全力で走った。
走って走って、とにかく走って、目についた部屋に飛び込んだ。
部屋に入ると、物陰に隠れる。
部屋の中から廊下に視線をやるが、そこには暗闇が存在するだけで人影はない。
友達もみんな、どこかに行ってしまい、はぐれてしまっていた。
今自分が何階にいるのかもわからなかった。
階段を降りた記憶はあるが、一体どれだけ降りたのだろうか・・・
冷静ではいられない。
体がガクガクと震えている。
得体の知れないモノに追われているのだ。
さっきの男は何者なのか。
もしも、捕まってしまったら何をされるのか分からない。
漠然とだが死の恐怖を感じていた。
情けないが、もう泣き出したかった。
それでも泣かなかったのは、声を漏らせばさっきの覆面男に自分の居場所を教えてしまう可能性があったからだ。
怯えながらも、意識だけは廊下に集中した。
男がこの部屋に入ってきたら、どうやって戦おうか・・・
大人の男だ・・・絶対に勝てない・・・戦うなんて無理だ・・・
逃げるしかない。
逃げられるのか・・・・
相手は大人だぞ。
そのとき、廊下で足音が聞こえてきた。
コツコツコツコツ・・・
早歩きで、廊下を歩いている音だ。
子供のスニーカーの音ではない。
間違いなく大人が廊下を歩いている。
俺の身体は硬直した。
全身の毛穴という毛穴から、汗のような汗ではないような液体が一気に噴き出す感覚を覚えた・・・
コツコツコツコツ・・・
確実に、足音は近づいてくる。
俺の身体は、硬直しながらもガクガク震え、歯がガタガタガタガタと音を立てている。
バカ!
歯の震え、収まれ!
このガタガタ音が、男に聞こえてしまうのではないかと、気が気ではない。
コツコツコツコツ・・・
もう、男の息遣いまで聞こえてくるような気がした。
そして、男の独り言も聞こえてきた。
「あのガキども・・・どこ行きやがった・・・ぶっ殺してやる・・・」
当然のことかもしれないが、暗闇でも俺たちが子供だとバレていたようだ。
そして、男の独り言から、まだ誰も捕まっていないことが分かった。
だからと言って全く安心はできなかった。
むしろ俺は、他の友達の誰かが捕まっていてほしかった。
無責任だが、そう願ってしまった。
今一番危ないのは、間違いなく俺だ。
俺が殺されるくらいなら、友達が先に捕まっていてほしかった・・・
廊下には、男の懐中電灯の明かりがはっきりと見える。
その明りは、俺の隠れている部屋の入り口まで来ると、部屋の中を照らし始めた。
ヤバい!
俺は、出来る限り身体を小さくした。
そして、考えてしまった。
もしかすると俺の人生は、ここで終わりなのかもしれないな、と・・・