こんな時間にいったい誰なのだろう。
一瞬、家出がバレたのかと思った。
誰かの家族が捜しに来たのかと疑ったのだ。
でも、それはあり得ない。
なぜなら、この廃ビルで遊んでいることを大人たちは知らないはずだからだ。
じゃあ、誰なんだ。
コツン、コツン
足音はどんどんこちらに近づいてきている。
もうすぐ、俺たちのいるこの部屋まで来てしまう。
どうする。
どうすればいい。
俺たちは暗闇の中で、不安そうに顔を見合わせた。
だが、なにもアイデアは浮かばない。
目が慣れてきたのだろう。
窓から漏れる外からの光で、ライト無しでもお互いの顔は確認できる。
コツン、コツン・・・
マジでヤバいかもしれない。
足音はもう、本当に近くまで来ていた。
そして。
キィーー
扉が開く音が聞こえた。
どうやら、俺たちのいる部屋の隣の部屋に入って行ったようだった。
その場にいた皆が、安堵しているのが分かった。
「フ~・・・おい、どうする?」
一人が小声で聞いてきた。
俺は人差し指で静かにしろとジェスチャーを送りながらも、小声で返事をした。
「どうするも何も、相手が誰だか分からないだろ。」
「幽霊かな?」
「バカ、足音するってことは、足あるだろ?じゃあ、幽霊じゃないよ。」
「足ある幽霊もいるだろ?だって俺、昔・・・」
話が脱線してきたから、俺が引き戻した。
「そんなこと、どうでも良いから!・・・逃げた方が良いかな?」
「逃げるったって、どこにだよ?俺たち、行く当てないだろ。」
「じゃあさ、相手が誰だか、確認しようよ。」
「確認・・・?」
ワクワクする顔の奴と、恐怖を顔に浮かべる奴の、二つに別れた。
「こいつ、ビビってるよ!」
ワクワクした奴の一人が、恐怖した奴をバカにした。
指をさされた奴は憤慨した顔で、少し大きめの声で反論する。
「ビビッてねえよっ!」
「シッ!お前、うるせえよ!」
一人の奴が言った。
「とにかく、確認してみよう。今日来れなかった奴(友達)の誰かが、急きょ来たのかもしれないし。で、俺たちのことを探してるのかもよ?」
そうか、それもそうだ。
今考えれば、そんなことは絶対にないだろう。
でも、あのときの俺たちは、本気で友達が来たような気もしていた。
いや、そうでも考えないと、怖かったのかもしれない。
確認はしていないが、時刻はおそらく24時を過ぎているだろう。
小学生にとってすれば、未知の時間帯なのだ。
そんな時間に、得体の知れない足音が響いているのだ。
怖くないわけがない。
俺たちは、足を音を極力抑えながらそーっと隣の部屋に向かった・・・・