小学生の頃。
学校にとある団体が来てくれた。
演劇を見せに来てくれたので、おそらく劇団の人たちだと思う。
確か、劇の内容は宇宙に行きたいと願う男性がどうとかという話だった。
問題は、その劇の内容ではないのだ。
舞台の隅っこにいる、着物姿の男の子(5歳くらいだった)のことだった。
舞台の隅っこにずっと座っている男の子がいたのだ。
その劇の内容からして、着物姿の男の子が舞台上にいるのは明らかにおかしい。
そして、先生たちも含めて生徒の多くが、その男の子の存在に気が付いていなさそうだった。
隣にいた友人に、聞いてみた。
「あい、あの男の子なんなんだ?」
「え?わかんねえよ。」
取り合ってもらえない。
それでも気になったため、しつこく聞いた。
「おい、ほら、明らかにおかしいじゃんよ。」
「お前うるせえよ、集中して見ろよ。」
大人の真似した口調で説教される始末。
そして、しばらく見ていると、着物の少年はニコッと笑ったのだ。
そのとき見えた男の子の歯は、真っ黒だった。
まるでお歯黒をしているかのように、真っ黒だった。
当時、視力2.0の俺が確認したのだから間違いない。
最後まで、その少年のことが何なのかが分からなかった。
俺は、劇に集中などできなかった。
怖くて仕方なかったのを覚えている。
その日の休み時間。
俺は、多くのクラスメイトに「着物の少年」について聞いて回った。
たぶん、20~30人に聞いて回った。
ほとんどの生徒は、知らないと答えた。
だが、1人だけ「着物の男の子を見た」と言った女子がいた。
その女子は、男の子のお歯黒には気が付かなかったそうだが、見た瞬間に霊的なものだと感じたらしい。
やはり、幽霊だったのだろうか。
あの着物の男の子のことを、大人になった今でもときどき思い出してしまう。
終わり