これは、知り合いのAさんが体験した怖い話です。
Aさんは、あるとき旧友のBさんと街で偶然再会しました。
お互いに時間が空いていたものだから、じゃあ今から一緒にのみに行くか、ということになりました。
ふと見るとバーがあります。
あの店でいいかと、2人はそのバーに入りました。
店の雰囲気も悪くなく、2人で思い出話に花が咲きました。
すると突然、Bさんがおかしなことを言い出したそうです。
「なあ、あのカウンターに座っている女。変じゃないか?」
見ると、カウンターには1人客が何人か座っています。
確かに、その中に1人だけ女性客が混じっています。
一見普通の女性客です。
Aさんには、何が変なのかまったくわかりません。
Aさんの座っている位置からでは、振り向かないとカウンターは見えないのです。
一方のBさんの座っている位置からは、カウンターがよく見えるので、Bさんはその女性を観察していたそうなのです。
Bさんは、しばらくの間女性を見ていたそうなのですが、その女性は誰とも話をしていないというのです。
それどころか、飲み物が手元にありません。
しかも、体をまったく動かさないのだそうです。
最初は、注文が決まっていないだけかと思っていたそうなのですが、1時間近くも誰とも話さずに何も注文していないのは変です。
おまけに、動かないというのは普通じゃありません。
その女性客に対して、店のスタッフもリアクションが無いのです。
普通なら、スタッフが客に話を振ったり、注文取ったりするはずです。
ただ。
2人はおかしいとは思ったものの、気にしないようにしました。
他の客のことを気にしても仕方がありませんから。
楽しくお酒を飲むことにしたのです。
1時間ほど経ったでしょうか。
またBさんが、ふとカウンターを見ると、さっきの不思議な女性客が消えていたそうです。
あれ。
いつ帰ったのだろうか。
ちょうど注文を聞きにきたアルバイトらしきスタッフに聞きました。
「さっき、カウンターに座っていた女性のお客さん。帰ったんですか?」
すると、スタッフが答えます。
「え?いつの話ですか?今日はまだ、カウンターに女性客は座ってないはずですよ?」
AさんもBさんも、その女性客のことを見ています。
「そんなはずない、このスタッフは勘違いしているだけだ」と、店長にまで聞きに行ったそうです。
アルコールが入っているせいで、小さなことが気になったのでしょう。
店長にカウンターに座っていた女性客のことを尋ねると、明らかに顔色が変わりました。
「・・・・え?女性客、来てましたか?・・・・ああ、帰ったんですかね・・・・」
動揺を隠せないような、歯切れの悪い答えです。
AさんもBさんも、なんだか気味が悪くなり、その店を出たそうです。
後日。
Aさんは、「あれはおそらく、店の自縛霊じゃないかと思うんです。」と言っていましたが、本当のところは分かりません。