たとえ遊びでも、降霊術はやらないほうがいいのかもしれない。
今日は、そんな降霊術の怖い話。
彼女と一緒に夜の湖に遊びに来たときのこと。
たんなるデートだった。
肝試し感覚で行った場所だった。
怖い雰囲気を出すため、もちろん夜に向かう。
車は俺の運転だった。
湖に到着したときに、すでに彼女は怖がっていた。
確かに、懐中電灯で照らした湖はなんとも言えないような不気味な雰囲気があった。
俺はただ、場を盛り上げようとしたかったんだ。
怖がる彼女を見て楽しみたかっただけなんだ。
だから、昨夜考えておいた怪談をボソリボソリと語り始めた。
「あのさ。この湖、自殺者が多いんだって。」
「え・・・・?ここ、そういう場所なの・・・?」
「ああ、自殺者が多いからか幽霊の目撃談も多いそうだよ。」
彼女の顔が恐怖に引きつる。
見ていて面白い。
俺はさらに続けた。
「どうやら、多くの幽霊がこの湖に集まって、悪霊化してしまっているそうなんだ。だから、その悪霊たちに引きずり込まれて自殺してしまう人が後を絶たないらしい。有名な霊能者が話していたらしいよ。」
「なんで、そんなところ来たの?怖いよ!」
もちろん、俺の話はすべて創作だ。
昨日の夜に、彼女を怖がらせようと考えた物語なのだ。
有名な霊能者って誰だよ?っていうツッコミをされそうだが、彼女を怖がらせるには十分のようだ。
俺は調子に乗ってさらに続けた。
「でさ。俺、知り合いからこの湖の自殺者を召喚する降霊術を聞いたんだ。今やってみようよ。」
「嫌だよ!絶対嫌!」
「大丈夫。俺がついてるから。」
自分の作り話だから、俺も強気だ。
「うーん。。。じゃあ、ちょっとだけだよ。」
「まず目を閉じるんだ。それで、自殺した人に心の中で語りかける。成仏してください。そして、僕らの前に姿を見せてください。こう語りかける。いい、一緒にやってみよう。」
不安そうな彼女を一緒に、俺たちは目を閉じた。
そして、適当に心の中で語りかける。
よく考えれば、「成仏してください」と言いながら、「僕らの前に姿を見せてください」なんておかしなことを言っている。
何も起こるはずがないが、その場の雰囲気で十分に怖い気分を味わえた。
とりあえずの降霊術(的なこと)を済ませ、俺は満足して車に戻ろうとしたのだが。
湖の方から音が聞こえてきた。
ブクブク
泡のような音だ。
なんだろう。
俺と彼女は顔を見合わせ、持っていた懐中電灯で水面を照らしてみる。
何も見当たらない・・・・いいや・・・・水面の一箇所からボコボコと小さな泡が出ていた。
俺たちは、その部分に光を当て集中して見つめていた。
すると、驚くべきことに、突然水面から
ヌッ
っと、人影が現れたのだ。
俺は、危うく腰を抜かすところだった。
彼女はパニック状態になって叫んでいる。
湖の水面には、人の背中のようなものがぷかぷかと浮いている。
・・・・ゆ、幽霊?
いいや・・・・あれ、たぶん・・・いや、間違いなく人だよな・・・
とにかく、こうしていられない。
俺たちは、警察と救急に連絡をいれた。
その後は大変だった。
どうやら、本当に湖に身を投げた男性の死体だったのだ。
いろいろ、事情を聞かれたが、降霊術のことは言えなかった。
嘘から出た真と言えばそれまでだが・・・・
偶然にしてはできすぎていた。
面白半分で怪談を創作するのも危険なことがあるのだと、そのとき初めて知った。
終わり