幽霊より人間のほうが怖い「隣人」

幽霊と人間、どちらのほうが怖いだろうか?

もちろん、ときと場合にもよるだろう。

ただ、もしもあなたの隣人が危ない人だとしたら、それは注意が必要かもしれない。


アパートに越してきて、約7ヶ月。

大学を卒業して、就職と同時に借りた部屋。

心機一転で、自分だけの城に住むのが目標だった。

俺はこのアパートが気に入っている。

日当たりがよくない、湿気が多いなど難点を挙げればきりがない。

だが、住めば都。

コンビニもレンタルビデオも近くにある。

駅だって遠くない。

良い所だった。

あの日までは・・・・

ある日のこと。

俺がアパートを出て、50メートルほど歩いただろうか。

後ろから声をかけられた。

「あのー、山田さん。ちょっと待って!」

振り向くと、知らないおばさんがこちらに小走りに向かってきた。

はて?

このおばさん誰だっけ?

歳は50を超えているだろうか?

中年太りの体型に、白髪混じりの髪、たるんだ頬は、どう見ても50歳以上。

おばさんに心当たりのなかった俺は、

「あの何でしょうか?」

と尋ねるしかなかった。

すると、おばさんは

「何でしょうか、じゃないわよ。この前、お伝えしたでしょう?」

この前お伝えしただ?

これが初対面じゃないのか?

「あの、お伝えって、何のことでしょうか?」

「まあ、呆れた。手紙見なかったの?まあ、いいわ。今日帰ったら見てちょうだい。それじゃね。」

「あ、ちょっと、すみません。どちらさまですか?」

「もう、じれったい人ね。隣の部屋に住んでいる北村ですよ。」

お隣さんだったのか。

というと、手紙ってアパート関連のものかな。

そう思った俺は、真面目に返事をした。

「あ、分かりました。帰ったら手紙見ておきます。お手数おかけします。では、失礼します。」

そして、仕事へと向かった。

・・・・その日の夜。

家に帰ってから、今朝の出来事を思い出した。

ああ、そういや俺宛に手紙届いてるんだっけか。

俺は、平積みにされている手紙やら請求書などの中から、おばさんの言っていた手紙を探す。

ああ、これかな。

1つだけ切手の貼っていない手紙があったのだ。

明直接うちの郵便受けへ投函したのだろう。

早速中身を見てみると、女性が書いたらしき文字で一言だけこう書かれていた。

「山田さん、この前のお話、お受けします。」

意味が分からんぞ。

この前の話って、なんだよ。

今朝知り合ったばかりじゃなかったのか。

まあ、いいや。

放っておこう。

考えるのが面倒になり、この件は忘れることにした。

だが。

次の日の朝も、あのおばさんに会ってしまった。

俺がアパートを出ると、後ろから声をかけられたのだ。

「ちょっと、山田さん?」

振り向くとそこには、例のおばさんの姿がある。

「はい、なんでしょう?」

「手紙は読んでくれたの?」

「ええ・・・まあ。。。」

「そういうことだから、これからはよろしくね。」

おばさんは、こちらを見て微笑んでいた。

聞いていいのかどうか迷った。

だが、俺としては何を言われているのかまったく分からないものだから、聞くことにした。

「あの。。。。えーっと、確か・・・北・・村さん?でしたっけ?手紙の意味が分からなかったんですけど・・・」

すると、そのおばさんの顔は見る見る赤くなり、急に怒り出してしまった。

「まあ、呆れた。呆れたわ!手紙の意味が分からないですって?あなたと言う人はどれだけ非常識なのかしら?」

そんなことを言われても困る。

本当に意味が分からないのだ。

「すみません。僕は社会人経験も浅く、非常識かもしれませんが、あの手紙に関してはちょっと見当もつかないんです。」

「あなた、私に愛の告白をしてきたでしょ!」

ええーーー???

俺が、このおばさんに愛の告白だ?

この人なに寝ぼけたこと言ってんだ。

少し興奮してしまい、声が大きくなる。

「僕が、あなたに告白?馬鹿なこと言わないでくださいよ!僕にだって好みがある・・・・あっ。。。」

言ってしまった。

おばさんは、とんでもないくらい怖い顔になった。

「山田は、私に遊びで告白してきたって言うの?!人の気持ちをもてあそんだって言うの?!」

「遊びも何も、いつどこで僕があなたに告白したって言うんですか?」

「1週間前よ。1週間前に、あなたはアパートの前で、私に告白してきたじゃない!」

1週間前?

そんなことしてないぞ。

それに、何度も言うが、俺がこのおばさんに会ったのは昨日が初めてだ。

いかにお隣さんだとしても、直接顔を合わせて挨拶していたら記憶に残るはずだ。

俺は言った。

「してません。俺は1週間前に、あなたに告白なんかしてません。じゃあ、どんなシチュエーションで僕があなたになんて言ったのか教えてくださいよ!」

すると、おばさんは言った。

「あなたは、1週間前の今日。アパートの前で情熱的にこう言ったわ。{あなたを見て一目ぼれしました。結婚をしたい。僕の妻になってください。}と。」

馬鹿か、このババア・・・

んなこと言うか!

「俺が、あなたを見て直接言ったって言うんですか?!」

「そうよ。ま、直接と言うか、テレパシーだったけど、あれは直接みたいなものね。あなたの気持ちが、ビシバシ伝わってきたんだから。」

テレパシー?

なんだ?意味不明だぞ?

テレパシーだと?

ああ。。。。

この人、危ない人だったのか・・・・

俺は、苦笑いすると、その場を走るようにして去った。

後ろからは、おばさんの怒鳴り声が聞こえてきたが、無視して逃げた。

本気で相手をした俺が馬鹿だった。

おかげで、会社に遅刻だ・・・

そのババアは、次の日も、その次の日も俺に付きまとってきた。

付きまとっては、意味不明のことをほざいていた。

「責任取れ」「早く式を挙げる」

頭痛がしてくる。

いい加減にしてほしい。

このテレパシーおばさんのせいで、毎日気が重くなる。

23歳になったばかりの俺が、あんな中年に告白なんかするわけないだろ。

ましてや、テレパシーってなんだよ、それ。

小学校のとき以来、そんな言葉聞いたことないぞ。

5日連続で付きまとわれた俺は、どうにかしないといけないと思った。

そこで、大家さんに電話してみることにした。

プルルルルルーーーー

ガチャ

「はい、もしもし?」

「あのですね。わたし、○○アパート302の山田ですけど。」

「ああ、山田さん、こんばんは。」

俺は、今まで起きた出来事をこと細かく大家さんに説明して、どうにかならないものかと相談してみた。

すると、大矢さんは困ったような声を出している。

どういうことだろう。

あのおばさんに逆らったら、何かまずいのだろうか。

そして、大家さんはためらいながらこう言った。

「あのね、山田さん。驚かないでね。お宅のお隣、ずっと空き家なんだよ。というより、物置代わりにうちが使ってるんだ。」

その瞬間、全身にトリハダが立った・・・・

じゃあ、あのおばさん、いったい・・・・誰なんだ・・・・

お隣さんだと言うから、会話していたのに・・・・

俺はその後、住みやすかったそのアパートを泣く泣く引き払うことにした。

幽霊よりも人間のほうが怖いと、つくづく感じずに入られなかった。

終わり

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