旅先のホテル。
そこは、数知れない人々が寝食をしていく場所。
さまざまな思いをもった人たちが、次から次へと毎日のように訪れては去ってゆく。
中には、負の念を持った人間もいることだろう。
そんな負の念を持った人が泊まった部屋には、何かが蓄積されていてもおかしくないのかもしれない。
今日はそんなお話。
疲れていた。
今回の出張は、普段以上にきつかった。
俺一人で、回れるキャパを超えている。
旅先の宿泊するホテルに戻ってきたときには、もうベッドに倒れるようにして眠ってしまった。
・・・・途中、ふと目が覚めた。
どれくらい眠っていたのだろう。
真っ暗だ。
なんだか、狭いぞ。
どこだここは。
俺は、ここで何をしているんだっけか。
1秒で答えが出た。
そうだよ、俺は出張に来ているんだ。
今何時だ。
俺は、その狭い空間で立ち上がった。
次の瞬間。
顔になにやら得体の知れない布のようなものが覆いかぶさる。
うわっ。
なんだ。
真っ暗闇の中、手探りで現在いる場所を確認する。
ベッドではなさそうだった。
じゃあ、ここはどこだ。
10数秒の間、自分がどこにいるのかまったく分からなかった。
・・・・ん。
ここは、クローゼットの中か。
手で目の前の扉を開けた。
薄暗いが、今度は前が見える。
何で俺はクローゼットの中で眠っていたんだろうか。
それに、電気を消した覚えはないのだが。
意味が分からないが、とりあえず時間を確認する。
深夜1時半。
部屋に戻ってから、1時間くらいしか経っていないのか。
俺は、とりあえず洗面所で歯を磨き、ざっとシャワーを浴びた。
そのまま、電気を消すと横になる。
そして、いつの間にか夢の世界へ旅立った。
また、ふと目覚めた。
目の前は真っ暗。
あれ。
またか。
俺は、またもやクローゼットの中にいるようだった。
すぐにそこから這い出て、携帯で時間を確認する。
3時半。
1時間ちょっと眠っていたようだ。
俺は、もう一度ベッドに行き、すぐに眠った。
とにかく疲れていたんだ。
・・・・・まただ。
目が覚めた。
そして、狭くて暗い。
クローゼットの中だ。
何で俺はここにいるんだろう。
今度は、俺の手には何かが握られていた。
それが何かはすぐに分かった。
さっき、時間を確認した携帯電話だ。
携帯を握り締めたまま、眠ってしまったようだった。
俺は、携帯の液晶の電気をつけた。
ボーっとする明かりだが、辺りが明るくなる。
え・・・・
携帯の小さな明かりの中、俺の隣には女の人がいるのが見えた。
びっくりして、声も出ないまま、クローゼットから飛び出した。
部屋の電気を慌ててつける。
恐る恐るクローゼットの中を確認すると、誰もいない。
なんだったんだ。
見間違いか。
時間を確認すると、もう6時前だった。
少し早いが、起きてしまおう。
もうこの部屋で眠る気になれない。
俺は、改めて風呂に入ることにした。
熱い湯につかり、気分をリフレッシュした。
今日も仕事だ。
・・・・・・・・・その日の日中、出張先のある街を歩いていると、知らない子供に話しかけられた。
「ねえ?」
「・・・ん?あ、俺に話しかけてんの?何?」
「あの。。。お兄ちゃんの背中には、なんで女の人の顔があるの?」
これを聞いたとき、正直鳥肌ではすまなかった・・・
俺が見たクローゼットの女と、子供に話しかけられた事に関連性があるのかは分からない。
でも、偶然にしてはできすぎていた。
終わり