幽霊というのは、人の怨念。
人から恨みを買って、良いことなど一つもないのだ。
今日は、怨念や呪いに関する怖い話。
今から30年近く前のこと。
仮にその男をAとしておこう。
Aは、女にだらしのない奴だった。
いつも、女をとっかえひっかえ。
泣かしてばかりだったという。
あるとき、Aは一人の女性を妊娠させてしまった。
だが、好き勝手に生きているAが責任など取るわけがない。
「本当に俺の子かどうかわかるわけねえ!」
「この売女が!」
「そういうこと言って、俺から金をせしめるつもりか?」
さんざん罵った挙句、妊娠に関して一切聞く耳を持たなかったのだという。
両親を早くに亡くし、身寄りがなかった彼女。
一人でも、子供を育てたいという意思はあったらしい。
誰の協力も得ることができない状態で、女一人子育ては厳しかったのかもしれない。
その女性は、泣く泣く中絶するしかなった。
もちろん、当たり前のように費用は女性もち。
心に大きな傷を負ったであろう・・・・
自分の子供を中絶してしまったことや、汚い言葉で罵られたことが、彼女にはずいぶん堪えてしまったようだった。
そして、あまり強い女性ではなかったのだろう。
そのことがあってから、心を病んでしまった。
それから1年後に、自らの命を絶ってしまったのだった。
Aの耳にもその事実が伝えられたらしいが、そんなことは気にしなかった。
相変わらず女遊びばかりしていた。
彼女の自殺から、20年近くが経ったころ、Aの様子に変化が出てきたという。
どうやら、夢でうなされることが多いのだという。
時間が経つにつれて、うなされるのは夢だけではなくなり始めた。
起きているのに、ありもしない幻覚を見始めだしたのだそうだ。
医者にも通いだし、いよいよおかしくなっていった。
何もない空間を見て震えているのだ。
「ごめんよ、あのときは・・・・悪気はなかったんだ。。。。許してくれ・・・・」
意味不明な言葉を言っているのを目撃されたこともあった。
Aの友人のBに、一度こんな相談をしてきたこともあったという。
「あいつだ。昔俺が妊娠させた女だ。あいつ、生きてるんだ。俺の前に最近しょっちゅう顔を出して、耳元でずっとわけ分からないこと言ってやがるんだ。なあ?あいつから逃れるには、俺はどうすればいい?どこに逃げればいい?」
そんなことを言っていたらしいが、その女性が亡くなっていることは紛れもない事実なのだ。
Aには何が見えていたというのだろうか。
それから、1年と経たぬうちに、Aは自らの命を絶ったという。
なぜか、のこぎりで自分の腕を切り落として亡くなったのだとか。
のこぎりというのは、じわじわ肉や骨を削るわけだから、自殺には向いていない。
それどころか尋常じゃない痛みがあったはずなのだが、Aがなぜそんな死に方を選んだのかは不明だという。
もしかすると、Aにだけしか見えない女の幽霊に行動をコントロールされていたのかもしれない・・・・
自分の好き勝手生きて、最期は悲惨な終わり方だった。
これは、Aの友人だった男Bが話してくれた話だ。
Bが言っていた言葉は印象的だった。
「人間、人からの恨みはなるべく買わないほうがいい。俺はAを見ていて思ったね。呪いや怨念は、後から来るものなのだと。」
終わり