霊とは、水に記録されて残る思念だという考え方がある。
霊が水場付近で目撃されることが多いのは、そのためである。
今日は、そんな水にまつわる怖い話。
サークル仲間たちと、肝試しに行った日のことだった。
私はアパートに帰宅した。
家に着くと真っ先に洗面所でメイクを落とす。
顔にメイクが残っていると、重たい感じがして嫌なのだ。
洗面所で顔を洗っていると、どこからか視線のようなものを感じた。
きっと、肝試しに行った帰りだから、恐怖心が残っているだろう。
こういうとき、女の一人暮らしは心細い。
気にせず洗顔を終え、そのままお風呂に入ることにした。
夏だったので、湯は張らずに、シャワーだけで済ますことにした。
髪の毛を洗っているときも、人の視線を感じるような気がした。
シャワーを止めて振り返ってみても誰もいない。
誰も居なくて当たり前なのだ。
またシャワーを出し、髪をゆすいでいると、私の手とは別の手が髪を触っていた。
間違いなく誰か人の手だった。
シャワーも止めずに後ろを振り返るが誰もいない。
気のせいだったのだろうか。
前を見ると目の前の鏡は、女が映っていた。
見たこともない女が、ニタニタしてこちらを見てるのだ。
女は、私の真後ろにいる。
もう、パニックだ。
悲鳴を上げながら、後ろを振り向いたが誰もいない。
幻覚だろうか。
肝試しに行ったせいで、神経が過敏になっているのだろうか・・・・
怖くなった私は、さっさとお風呂から上がった。
身体をふき着替えを済ませると、髪も乾かすのも忘れて友達に電話した。
友達にさっき見たものを説明すると、今から来てくれるという。
こういうとき、家が近いのはありがたい。
友達からしてみれば、ちょっとした肝試しのような感覚なのかもしれない。
30分と待たずに、友達が部屋にやってきた。
そして、問題のお風呂に2人で行ってみることにした。
恐る恐る中を覗いてみるが、何もない。
やはり見間違いだったのだろうか。
その後、部屋で友達と少し雑談していると、どこからか音が聞こえてきた。
ジョボジョボジョボジョボ
最初は気にしなかったが、その音は続いている。
ジョボジョボジョボジョボ
何の音だろうか。
水の音のようだ。
気になって耳を澄ましてみた。
どうやらその音は、お風呂場から聞こえてくるようだった。
友達と顔を見合わせる。
二人で、またもやお風呂場に足を運んだ。
なぜか湯船のお湯がジョボジョボと勢いよく出ている。
湯船にお湯を張るセットをした覚えはない。
それなのに、目の前ではお湯が湯船から溢れてしまっていた。
このアパートのお湯はスイッチでコントロールするタイプではなく、蛇口をひねらないと水が出てこない造りになっている。
つまり、お湯が出るのは誰かが蛇口をひねったということになる。
私も友達も、蛇口をひねっていない。
じゃあ、いったい誰が・・・・
私は怖かったが、溢れ出すお湯を止めるため蛇口を逆方向にひねった。
そして、湯船の中を見て絶句する。
先ほど鏡越しに見た女が湯船の中にいたのだ。
ニタニタしながら、水中からこちらを見ている。
私は瞬時に逃げ出した。
友達も同じものを見ていたらしく、私と共に逃げ出していた。
二人で外に飛び出すと、しばらくの間震えていた。
もう、今日は部屋には戻れない。
その日は、友達の家に泊めてもらうことにした。
帰るのが嫌で嫌で仕方なかったが、次の日にはアパートに帰ることにした。
私はあの日以来、家のお風呂を使うのが嫌で、しばらく銭湯通いをしている。
あの女を見てから、部屋のお風呂はまだ一度も使っていない。
いつか使うときが来るのが、怖い。
今は、引越し費用を稼ぐため必死にバイトを増やしている・・・・
終わり