女の一人暮らしとアパートの変態住人

友達の美佐子の話。

美佐子は、アパートを借りた。

いわく付きではないとのことだったが、かなり安いアパートだった。

その安さの理由は、実際にアパートに行ってみて分かった。

外観は、お世辞にもきれいとは言えない。

トイレこそ共同ではないものの、若い女が一人暮らしするアパートではないと思った。

セキュリティーにも問題がありそうに思えた。

美佐子は可愛いんだから、もっと警戒心を持ったほうがいい。

私は、そのアパートを眺めながらそう思った。

アパートの中に入ってみると、部屋そのものは女の子の部屋だった。

クローゼットではなく押入れだし、フローリングではなく畳だけれど、インテリアの配置や工夫次第で、部屋は可愛くなるものだった。

その部屋は、不思議とくつろげた。

おそらく、美佐子の人柄のせいだろう。

安いアパートでも、快適な雰囲気になっているのだと思う。

私は、途中・・・・わけあって、強引に美佐子を部屋の外に連れ出した。

私が理由を言わないものだから、なかなか外に付いてきてくれない美佐子に腹が立った。

それでも、手を引っ張って強引に連れ出した。

外に出てアパートからずいぶん遠ざかったところで、私がさっき部屋の中で見たものを美佐子に伝えた。

実は、私が何の気なしに覗いた押入れの中に、中年の男が潜んでいたのだ。

その瞬間、私は失禁しそうになるくらい驚いた。

だが、失禁も大声も我慢した。

男は私の視線に気が付いていないようだったから、この場で女二人で騒いだら命が危ないと考えたのだ。

とにかくその場は逃げて、助けを呼んだ方が得策だと考えたのだ。

ただ、これらの理由は後付けかもしれない。

あの時はとにかく怖かった。

よく都市伝説で、「女の一人暮らしの部屋で、ベッドの下に包丁持った変態男が隠れていた」とかいう話があるが、これに似ていると思った。

男の手に包丁こそ握られていなかったものの、まさに変態男のリアルバージョンだ。

私もあまりの出来事にパニックだった。

美佐子に上手に言葉で伝えることができずに、もどかしかった。

それでも、私が必死に説明を続けたため、なんとか信じてもらえた。

そして、これからどうしようということになった。

一番良いのは、警察に行くことだ。

でも、まだ事実関係がはっきりしない以上、話を大事にしたくないというのが美佐子の意見だった。

私はその意見を尊重し、まずは大家さんに相談に行くことにした。

美佐子はどれだけ危機感がないのだろうと多少呆れはした。

自分の家の押入れの中に、知らない中年男が潜んでいたら、普通なら怖くて警察に駆け込むことだろう。

ましてや、それが女の一人暮らしだ。

なのに、美佐子ときたら。

これはもう、おっとりというレベルではなく、鈍感と言った方がいい。

大家さんはというと、親切な方で、事情を説明すると、最初こそ驚いていたが、すぐに若い男性を呼んでくれた。

そして、みんなで美佐子の部屋を調査することになった。

みんなで部屋に戻り、例の押入れを調査した。

そのときには、押入れには誰もいなくなっていた。

だけど、大家さんがいろいろと調べてくれたところによると、押入れから天井裏へと簡単に侵入できるそうだ。

そこから他の部屋の押入れへと、移動できそうだということが発覚した。

大家さんも話を大事にしたくはないらしく、警察は待ってくれと言われてしまった。

でも、事の重大さには気づいてくれたようで、美佐子の引越し先の手配と費用はすべて出してくれるということになった。

おそらく、アパートから逮捕者など出して、悪評が立つのを嫌がったのだろう。

それなら、引越し費用を出した方が得だと考えたのかもしれない。

そして。

この話をすんなり信じてくれたことから、もしかすると大家さんなりに思い当たることがあったのかもしれない。

たとえば、アパートの変態住人が住んでいるのだろうか、など想像した。

とにかく、こんな危険なアパートに女が一人暮らしするべきではないと心底思った。

女の一人暮らしは、ある程度以上のセキュリティーが絶対に必要だとしみじみ思う。

今回は大事には至らなかったものの、あのまま気が付かなければ大きな事件に繋がっていたかもしれないのだ。

終わり

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