俺の感じた違和感は、車を降りてからますます強まった。
そして、この違和感の正体に気がつき始めていた。
でも、それを認めたくない。
認めてしまったら、すべての辻褄(つじつま)が合わなくなってしまうのだ。
俺は、おじいさんの家の玄関の前に立つと、先週と同じように戸を叩いた。
ドンドンドンドン
「すみませーん。」
俺の声はむなしく響く。
そして、戸を叩いた手にホコリがつき、ホコリは宙を舞った。
くしゃみを一つすると、もう一度戸を叩く。
嫌だ、認めたくない。
何度戸を叩いても、誰も出てきやしないのだ。
だって、この家は、空き家なのだから。
空き家・・・
いや、空き家なんてものじゃない。
今にも崩れそうな家と言っても、過言ではないかもしれない。
どう見ても、先週俺が訪ねた家と同じには見えなかった。
でも、同じ家なんだ。
覚えているんだ。
先週来たときに、見た表札。
その表札とまったく同じものが、その民家にはあったのだ。
先週と違う点は、すべてが古くなっているということ。
タイムマシーンにでも乗り込んでしまったかのように、古くなっているのだ。
建物も、表札も。
俺は少なからず恐怖を感じていたが、他の民家も確認してみた。
やはり、すべての民家に人の気配はない。
ここには、生きている人間はいないだろう。
人の住めるような環境ではない。
車を降りていろいろ歩いてみて分かったが、道路から少し外れると、もう地面は荒れ果てていて、若者の俺ですら上手に歩けないのだ。
こんなところで、老人が暮らしていくことは不可能だと思う。
きっとここは、廃村なのだ。
しかも、ずいぶん前に廃村となったのだと思う。
俺は、おじいさんの家の前に羊羹(ようかん)を置き、大きな声でお礼を言った。
「先週は、ありがとうございました。お蔭で無事に家にたどり着けました。」
そして、車に乗り込むと帰路につく。
なぜだか分からないが、涙が止まらなかった。
運転中危なっかしいが、悲しくて仕方がなかったのだ。
きっと、あのおじいさんは、村への未練を残して亡くなったに違いない。
その未練がこの世に残り、あの晩、道に迷った俺を助けてくれたんだと思う。
なぜ助けてくれたのかは分からない。
でも、とても人の良さそうな人だったから。
死して尚、人助けがしたかったのかもしれないな。
終わり