高校を卒業して、間もないころに体験した話。
私は、東京の女子大に通うため上京してきた。
「東京の人は冷たい」
そんな先入観もあったけれど、中には優しい人もいる。
大学に行くために自宅のアパートを出ると、毎朝決まって顔を合わせる中年の男性がいた。
1月ほどすると、その男性から挨拶されるようになる。
「なんだ。東京の人だって、顔を合わせれば挨拶するんだ。」
少しホームシックになりかけていた私は、人の温かみに触れたようで、その出来事が少しだけ嬉しく思えた。
それからしばらくすると、私は大学のそばで同じ中年男性と顔を合わせた。
少し驚いたが、お互い笑顔で挨拶をした。
それからというもの、私の行く先々でその中年男性と顔を合わせることが多くなった。
最初のうちこそ、偶然だと思っていた。
「私たちは行動パターンが似ているのかな?」
「男性の会社が私の大学のそばなのかな?」
など、そんな風に考えていた。
だが、だんだん偶然会う回数があまりに多いことを、奇妙に感じるようになった。
なぜだろうか。
いくら考えても答えは出なかった。
そんなある日。
私は、帰りが遅くなってしまった。
東京に出てきてから、バイトを始めたのだ。
自宅アパートのそばは、なんとなく夜道が薄気味悪い。
バイトそのものよりも、夜道の帰宅が苦痛だった。
私が夜道を歩いていると、突然後ろから誰かに抱きしめられた。
羽交い絞めにされたといった方がいいかもしれない。
振りほどこうにも、力が凄くて振りほどけそうにない。
とにかく怖くて、パニックになってしまった。
続き→奇妙な話「ストーカー」2