いつもと同じ朝だった。
僕は、いつもと同じように顔を洗い食パンをかじり、制服に着替えた。
そして家を出る。
その日は、学校に行くまでに誰ともすれ違わなかった気がする。
自転車をいくら漕いでも、人ともすれ違わなければ、車も通らない。
おかしなこともあるものだと思ったが、それほど気にしなかった。
学校に着くと、僕が一番乗りのようだった。
時計を見ると、8時10分だ。
始業ベルは8時20分だから、まだ余裕がある。
だが、この時間に誰も来ていないなんておかしい。
いつもなら、クラスの半分近くが登校している時間だった。
待つこと、10分。
みんな、示し合わせたように8時20分ぴったりに教室に入ってきた。
誰も一言も口を利かない。
無言だった。
無言なだけじゃない。
無音なのだ。
足音も、イスを引く音もしない。
それは、先生も同様だった。
無音で入ってきたかと思うと、目線の定まらぬ顔で機械のように出席を取り始めた。
僕は、周りを見渡した。
クラスの生徒はみんな、視線が定まらぬ様子で、ボーとしているように見える。
何があったというのだ。
僕は隣の席の女子に話しかけてみた。
女子はこちらを見ないで、機械のような声を出す。
まるで、機械の声をテープに録音し、10年くらい放置してから再生させたような喋り方だった。
不気味で古臭く、抑揚が一切ないのだ。
僕は怖くなり、後ろの席の奴にも話しかけた。
そいつも、まったく同じ反応だ。
しかも、先ほど話しかけた女子と一語一句変わらない言葉だった。
ここは、本当に学校なのだろうか。