前回→ちょっとエッチな女の幽霊 本当の体験3 (→1話から読む)
「あ、あ、あの、あのね、おあ、お母さ、んっ。ここれはねね、違うんだよ!」
完全に声が裏返っていた。
どう言い訳していいのかわからない。
女の人のことを、なんて言えばいいんだろうか。
「さっきからなにやら声がすると思ってきてみたら、あんたまだ起きてるの? 一人でぶつぶつぶつぶつ気持ち悪い子ね。」
母親は苦笑いしている。
「お母さん? え? 女の人が・・・え?」
「なに?寝ぼけてるの?さっきから、独り言は寝言なの?」
まったくかみ合わない、母子の会話。
「早く寝なさいよ!」
「うん・・わかった・・・・」
母親が出て行った扉をしばらく眺めた。
そして、俺の目はもう一度女の人を見た。
相変わらず綺麗な顔で、こちらに微笑みかけてくれている。
母親には、女の人が見えていないのだ。
背筋がヒヤッとする。
それはつまり、幽霊なのだろうか。
まさか、俺のことをあの世に連れて行く気なのだろうか。
怖い想像をしてしまう。
だが次の瞬間、自分の考えを激しく否定した。
そんなことはあり得ない。
この人は、俺に危害を加えたことがないのだ。
それは、俺が一番よくわかっている。
そんなことを考えていると、いつもの尿意に襲われた。
この尿意が憎たらしい。
俺は、女の人に言った。
「ねえ、俺は今からトイレに行くけど、絶対いなくならないで。話したいことがあるんだ!」
すると、女の人は俺を抱きしめてくれた。
優しい抱きしめ方だった。
とても冷たい身体。
それなのに、俺の心は温かくなった。
この人にいなくならないでほしかった。
だから念を押した。
「いい? 絶対帰ったら嫌だからね!」
俺はトイレへと急いだ。
30秒足らずで部屋に戻ってみたが、女の人は消えていた。
帰らないでって言ったのに、ダメだった。
ひと月後、俺は13歳になる。
次に再会できるのは、きっとその日だ。
その日が来たら、俺はあの人にどうしても伝えたいことがあった。