結局、その日は一睡もすることができなかった。
朝になると、「具合が悪い」と親に言って学校を休んだ。
12歳の少年が、エッチな雰囲気の女の人と一晩を共にしたのだ。
と言っても、手を握っていただけではあるが、そんなことは生まれて初めての体験だ。
興奮して眠れないのは無理もない。
その女の人は、いつの間にかいなくなっていた。
俺がトイレに行っている間に、いなくなっていたのだ。
女の人の手があまりに冷たくて、途中でおしっこに行きたくなってしまったのだ。
いったい、どこから入って来て、どこに消えてしまったのだろうか。
俺はそんな疑問を抱きながらも、「もしかしたら今日も来てくれるかな?」なんていう期待をしてしまっていた。
その晩。
女の人は現れなかった。
次の晩も、その次の晩も現れない。
ずっと待っているのに、一向に現れる気配はない。
10日ほど過ぎたころ、俺はもう諦めムードになっていた。
そして。
あの晩からちょうど1ヶ月が過ぎていた。
そのころにはもう、俺は女の人のことは忘れて、毎晩ぐっすり眠っていた。
でも、ある晩。
手の冷たさで目が覚めた。
薄目を開けると、俺の横に誰かがいるのがぼんやり見えた。
視界をはっきりさせようと、目をがむしゃらに擦った。
だんだん前が見えてくる。
横には、例の女の人がいるではないか。
前に会ったときと同じように、俺の手を握って眠っている。
俺はとっさに声をかけた。
「あの・・・・」
でもその後が続かない。
何を話していいのかが分からないのだ。
よし、もう一度声をかけよう。
「あ、あ、あの・・・・」
緊張のためか、ドモリ気味になってしまう。
女の人は、薄目を開けて小さく微笑んだ。
もうその顔があまりに綺麗で、俺はどうでも良くなってしまった。
何でここにいるのか知りたいけど、知らなくてもいい。
俺は、この人をずっと待っていたのだ。