少し道に迷ったが、何とかホテルに到着した。
彼女はどことなく緊張した顔をしている。
もしかすると俺の方が緊張していたかもしれない。
部屋に入り、まずは備え付けのポットでお茶を沸かした。
お茶でも飲みながら、ホラー映画を見ようと思ったのだ。
休憩は3時間だ。
このビデオを選んだのには、もう一つの理由があった。
パッケージが怖いことだけではないのだ。
時間が短かったのだ。
収録されているのはせいぜい1時間くらい。
せっかくホラー映画を口実にホテルに来ても、映画だけを見て終わってしまっては意味がない。
計算高い俺は、ちゃっかり先のことを考えていた。
沸かしたお湯がぐつぐつ音を立て始めた。
俺は手早くお茶を入れる。
緊張を和らげようと少しだけ談笑しながら、ビデオテープをデッキに差込んだ。
準備万端だ。
せっかくだから、暖房を弱くして彼女の真隣に座った。
これで、いつ抱きついてこられてもオッケーだ。
いざビデオを見始めて、俺はいささかがっかりした。
日本の古いホラーって感じなのだが、それほど怖いシーンはなかった。
唯一怖かったのは、ラストの方だけだった。
主人公の少女を追いかけてくる女の幽霊シーンだ。
少女は叫びながら、幽霊から逃げるのだ。
「やめてーーー!来ないでーーーー!助けてーーー!」
このシーンだけは異常な迫力があった。
ストーリーはありきたりで、はっきり言えば退屈だったが、このシーンだけは全身が凍りつく思いになった。
さあ、ビデオは見終わった。
最初から、俺の目的はこれじゃない。
ビデオの停止ボタンを押して、続けざまに巻き戻しのボタンを押した。
ここからが勝負だ。
俺はいつになく緊張し、彼女のそばに行く。
その緊張が伝わっているのか、彼女は下を向いてしまっている。
そっと抱きしめると、彼女は体重をこちらに預けてくれた。
俺たちはやさしくキスをして、場所をベッドに移した。
枕もとの電気を暗くし、無言で彼女を抱きしめた。
ああ、このときを俺はここ数ヶ月待ち望んでいたのだ。
俺は、服を脱ぎ下着姿になり、彼女の服も脱がせた。
お互い下着姿になって、彼女は照れたように小さく微笑んだ。
そのとき、うっすら点いていた電気がぱっと消えた。
一瞬すべてが何も見えなくなった。
ホテルの部屋は、遮光の作りになっているのだ。
停電だろうか。
そう思ったとき、突然大きな声が部屋中に響いた。
「やめてーーー!来ないでーーーー!助けてーーー!」