これは10年前に体験した「南千住の怪談」である。
当時の俺は、北千住で1人暮らしをしていた。
高校卒業と同時に田舎を飛び出して、東京で1人暮らしを始めたのだ。
夢の東京暮らしだったが、バイトバイトでヘトヘトとの毎日だった。
ある日、バイトの残業が多くなり、終電ギリギリになってしまった。
駅まで走ったが、最終には間に合わず。
なんとか、上野行きには乗ることができた。
上野から北千住までは5キロはあるだろう。
徒歩で移動するのは面倒な距離だった。
元気なときならいざしらず、バイトで残業し疲れきった体なのだ。
5キロの道のりを歩くのは苦痛だった。
家賃と生活費でギリギリの俺に、タクシーを使える余裕はない。
選択肢などなかった。
歩くしかない。
まずは、腹ごしらえに牛丼屋に入った。
これから、たくさん歩くのだ。
少しくらい贅沢しても罰は当たらないだろう、ということで牛丼大盛りを注文。
バイト終わりで腹ペコの俺には、牛丼が何よりのご馳走だ。
満腹になり、少しだけ休憩する。
このまま歩いたら気持ち悪くなりそうだったからだ。
小休憩後、「よしっ」と気合を入れる。
途中コンビニで道を聞きながら、身体に鞭を打って歩き出した。
すぐに足の裏が痛くなった。
薄っぺらい履きつぶしたスニーカーはクッションが効いていない。
なにより、家と駅の往復以外で歩いていなかったのだ。
足の裏が弱くなっているようだった。
こりゃあ、思っていた以上にしんどそうだ。
上野から1~2キロは歩いただろうか。
ここがどこだか良くわからないが、北千住に向かう道は1本道だと教わったので、おそらく道はあっていると思う。
周りには車が走ってはいたが、人は少なかった。
突然、後ろに人の気配を感じて、振り返る。
10メートルほど離れたところに、女の人歩いていた。
進行方向は俺と同じようだ。
その女の人は、なぜだか着物を着ている。
何で着物なのだろうか。
季節は11月だ。
携帯で時間を見ると深夜2時近くだった。
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