前回→怖い話実話「夢でよかった」10 (→1話から読む)
二人とも、無言で部屋を見回した。
さっき「人がいないこと」を確認したはずなのに、やはり誰かが潜んでいるような気がしてきた。
もう、隠れる場所はないはずなのに。
「とにかく、もう一度ビデオテープをよく探せ。」
友達は、スパナを握りしめながら、唸るように言った。
きっと不安を感じているのだろう。
部屋中探してみたが、ビデオテープは見つからない。
あの映像が夢だったかのように、テープは姿を消した。
俺がうなだれていると、友達が言った。
「なあ、テープなくても警察行った方が良くないか?」
「ああ、そうだな。でも、行っても取り合ってもらえない気がするわ。証拠が何もないし。」
「確かにそうだけどさ。 何もしないのはしゃくだろ?」
「・・・・なあ、今日お前ん家に泊めてもらえないか?」
「ああ、それは構わないけど。どうせ、ここにはもう戻らないんだろ?荷物まとめて、次が決まるまでうちに住んでいいぜ。」
「悪いな、ありがと。そうさせてもらえると助かるわ。 あ、気づかなくて悪いな。なんか飲むか?缶のウーロン茶があるんだ。缶に入ってるから安全だと思う。」
俺は、冷蔵庫にウーロン茶を取りに行った。
そして、冷蔵庫に貼ってある小さなホワイトボード見て、絶句した。
ホワイトボードには、文字が書かれていたのだ。
「い な い」
汚い字で書かれている。
その字に見覚えはなかった。
俺が書いたものじゃない。
きっと、あの撮影者が書いたものと思われた。
でも、いつ書いたというのだ。
昨晩だろうか。
それとも、つい今しがただろうか。
いったい、あの撮影者は俺に何をしたいというのだろうか。
目的が分からない。
体中に嫌な汗が噴き出しているのを感じた。
その文字を発見した瞬間から、俺はもうこの部屋への未練を捨てた。
友達に手伝ってもらい、その日のうちに部屋を空にした。
ここへは、もう戻ることはない。
また、例のスニーカーは、引っ越しと同時に処分した。
警察へは行ってはみたが、やはり証拠がなければ動けないとのことだった。
交番のおまわりさんがいい人で、親身に話を聞いてくれたのは嬉しかった。
このエピソードに、続きはない。
あれからかなりの時間が経過したが、引っ越してからは何も被害はなかった。(もちろん、引越し先がばれぬように、ありとあらゆる手は尽くしたが)
あのビデオ撮影者の男が何者なのか、なぜ俺をターゲットにしたのか、何が目的だったのか、すべては謎のままだ。
今でも、たまに夢でうなされることがある。
うなされて起きたあとに、決まって思い出してしまうことがある。
「ねえ?・・・・夢でよかった?・・・」
あの撮影者の意味不明な言葉だ。
終わり