怖い話実話 長編「夢でよかった」11

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二人とも、無言で部屋を見回した。

さっき「人がいないこと」を確認したはずなのに、やはり誰かが潜んでいるような気がしてきた。

もう、隠れる場所はないはずなのに。

「とにかく、もう一度ビデオテープをよく探せ。」

友達は、スパナを握りしめながら、唸るように言った。

きっと不安を感じているのだろう。

部屋中探してみたが、ビデオテープは見つからない。

あの映像が夢だったかのように、テープは姿を消した。

俺がうなだれていると、友達が言った。

「なあ、テープなくても警察行った方が良くないか?」

「ああ、そうだな。でも、行っても取り合ってもらえない気がするわ。証拠が何もないし。」

「確かにそうだけどさ。 何もしないのはしゃくだろ?」

「・・・・なあ、今日お前ん家に泊めてもらえないか?」

「ああ、それは構わないけど。どうせ、ここにはもう戻らないんだろ?荷物まとめて、次が決まるまでうちに住んでいいぜ。」

「悪いな、ありがと。そうさせてもらえると助かるわ。 あ、気づかなくて悪いな。なんか飲むか?缶のウーロン茶があるんだ。缶に入ってるから安全だと思う。」

俺は、冷蔵庫にウーロン茶を取りに行った。

そして、冷蔵庫に貼ってある小さなホワイトボード見て、絶句した。

ホワイトボードには、文字が書かれていたのだ。

「い  な い」

汚い字で書かれている。

その字に見覚えはなかった。

俺が書いたものじゃない。

きっと、あの撮影者が書いたものと思われた。

でも、いつ書いたというのだ。

昨晩だろうか。

それとも、つい今しがただろうか。

いったい、あの撮影者は俺に何をしたいというのだろうか。

目的が分からない。

体中に嫌な汗が噴き出しているのを感じた。

その文字を発見した瞬間から、俺はもうこの部屋への未練を捨てた。

友達に手伝ってもらい、その日のうちに部屋を空にした。

ここへは、もう戻ることはない。

また、例のスニーカーは、引っ越しと同時に処分した。

警察へは行ってはみたが、やはり証拠がなければ動けないとのことだった。

交番のおまわりさんがいい人で、親身に話を聞いてくれたのは嬉しかった。

このエピソードに、続きはない。

あれからかなりの時間が経過したが、引っ越してからは何も被害はなかった。(もちろん、引越し先がばれぬように、ありとあらゆる手は尽くしたが)

あのビデオ撮影者の男が何者なのか、なぜ俺をターゲットにしたのか、何が目的だったのか、すべては謎のままだ。

今でも、たまに夢でうなされることがある。

うなされて起きたあとに、決まって思い出してしまうことがある。

「ねえ?・・・・夢でよかった?・・・」

あの撮影者の意味不明な言葉だ。

終わり

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