前回→怖い話実話「夢でよかった」9 (→1話から読む)
振り下ろしたスパナが空を切った。
押入れの中には誰もいなかった。
つまり、この部屋には誰もいなかったということになる。
友達は、安堵とも残念ともとれるような顔をしていた。
「お前が鍵をかけ忘れただけじゃないのか?」
そう言われると、そんな気がしてくる。
部屋を出るときの俺は、冷静でなかった。
よく覚えていない。
「ああ、もしかしたら、かけ忘れたかも。お騒がせしたな。」
二人して少し顔がほころぶ。
もしかして、今日笑ったのはこれが初めてかもしれない。
だが、ホッとしてもいられない。
例のビデオを、友達に見てもらわなければ。
俺は、ビデオデッキに入れっぱなしだったテープを再生させようと、テレビをつけた。
そして、ビデオの再生ボタンを押した。
すると、テレビ画面に文字が表示された。
《テープが入っておりません》
そんなはずはない。
もう一度再生ボタン。
《テープが入っておりません》
俺は、ビデオデッキに指をつっこみ、中を覗いた。
デッキの中は空だった。
そして、あることに気が付いてしまった。
「ああーーー!」
俺が突然大声をあげるものだから、友達は怒ったような声を出した。
「なんだよっ? どうした?何かあったのか?」
驚かせてしまったのだろう。
俺は返事をする。
「テープがないんだよ。」
「どこか違うところに置いたんじゃないのか?」
「違うんだ。俺、部屋出るとき慌てていたけど、一つだけ覚えてることがあるんだ・・・・ 俺、部屋を出るときにテレビもビデオも消してないんだ。でも、俺たちが戻ってきたときには、テレビもビデオも消えていただろ。そんで、ビデオテープもなくなっているんだ・・・・」