怖い話実話 長編「夢でよかった」6

前回→怖い話実話「夢でよかった」5   (→1話から読む)

画面には俺の寝顔が映っていたのだ。

疑うことなく安全であると信じていたこの部屋。

居心地の良かったこの部屋。

今はもう、こんな部屋に一秒でもいたくないという気持ちだった。

この部屋を出よう。

今日、引っ越そう。

引越しの費用も、引越し先のアテもない。

だが、そんなものを考えている余裕はない。

すぐに、財布と最低限必要な物だけをバッグに詰め込んだ。

その間、まだビデオは再生されていた。

画面を見ると真っ暗で何も見えない。

だが、声だけは聞こえてきた。

おそらく撮影者の声だ。

かすれるような小さな声だ。

それでも、何を言っているのかは、はっきりと聞き取れた。

「ねえ?・・・・夢でよかった?・・・」

声から察するに、男のようだった。

年齢は分からない。

言っている意味がまるで分からない。

「こいつ、まともじゃない。」

すでに分かりきっていたことだが、改めて感じる。

俺はとにかく、すぐに逃げ出さなくてはならない。

短時間で身支度を済ませると、アパートを飛び出した。

もちろん、スニーカーは別のものを履いた。

部屋を出る際、ビデオとテレビも消さなかった。

もう触りたくもなかったのかもしれない。

外に出たはいいが、行くあてはない。

とにかく今は一人ではいたくなかった。

とりあえず、大学の友達の家へ向かうことにした。

当時は携帯なんてものは無く、ポケベル全盛期の時代。

公衆電話から、友達のポケベルに文字を打った。

何度も、何度も、入力を間違える。

指が自分のものではないようだ。

「イマカラオマエノイエイク ××(俺の名前)」

これだけ打ち込むのに、何分かかったろう。

次に、駅に向かった。

途中、何度も何度も振り返る。

尾行されていないだろうか。

俺のことを見ている人間はいないだろうか。

気のせいかもしれないが、あの撮影者がすぐ側にこちらを見ているような気がする。

俺は撮影者の顔は分からないのだ。

通りすがる、すべての男が怪しく見えてしまう。

駅に到着し、電車に乗り込んだ。

これから行く友達が、もし家にいなかったら俺はどこに行けばいいのだろうか。

誰かに助けてほしかった。

続き→怖い話実話「夢でよかった」7

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