テープがガタガタ言っている。
再生ボタンを押しても、砂嵐しか映っていない。
一瞬、停止ボタンを押そうかと迷う。
しばらくすると、やっと何かが映った。
夜道だ。
夜道を誰かが、歩いているようだった。
歩いている人間が撮影者だ。
どうやらら、撮影者は一人らしい。
フラフラ、ヨタヨタと歩いている。
酔っ払いの動きを大げさに真似たような歩き方に思えた。
なぜこの人は、フラフラな状態でビデオカメラを回しているのだろうか。
少しだけ疑問は感じたが、続きをぼんやりと眺めた。
そして、あることに気が付き俺は固まった。
それは、知っている道だったのだ。
知っているも何も、このアパートのすぐそばだった。
なぜすぐに気がつかなかったのだろうか。
撮影者の手元がぶれまくっているせいかもしれないし、ビデオが夜間撮影だったためかもしれない。
もしくは、ビデオカメラ自体の性能が悪いということも考えられる。
理由は分からないが、その道がアパートのすぐそばだということに遅れて気が付いた。
驚いた理由はそれだけはない。
撮影者が歩いている道順は、俺がバイト先からから帰る道順そのものだったのだ。
というのも、その道順は少し特殊なのだ。
大通りを避けて歩くのだ。
裏道をばかりを選んで歩くため、まったく同じに道順であるというのはおかしなことだった。
これは、バイト仲間のイタズラだろうか。
しかしそれは考えにくかった。
バイト仲間には、アパートの場所を教えていないはずだ。
もしも履歴書を見て、このアパートにたどり着けたとしても、絶対にその道は通らないはずだ。
普通は、大通りから来るはずだ。
自分と関係がありそうなそのビデオに、俺は集中してしまっていた。
途中、カメラが大きく揺れて、ある物が映った。
俺はそれを見て、吐き気を感じた。